第26話 無防備すぎる摩耶
「ただいまー。ふぃー、疲れた」
摩耶がヘトヘトな様子で我が家に上がってくる。
「もはやなんの説明もなくナチュラルに俺の家に入ってくるんだな」
「そんなこと言って。あたしがスッと入ってこられるように鍵を開けてくれてるくせに」
「それは癖だ。あんま鍵かける習慣がないんだよ」
「不用心だな。仮にも志渡は一度階段から突き落とされてるんだぞ。もっと用心しないと」
そう言いながら摩耶は靴下を脱ぎ、シャツの裾にも手をかけた。
「おい! お前こそ用心しろ。なに男の前でしれっと裸になろうとしてるんだよ」
「あー、ごめんごめん。実家のような安心感で、つい」
「ついじゃない、まったく」
摩耶は舌を出しながらシャワールームへと消えていく。
シャワーを浴びて出てきた摩耶はタンクトップ姿だった。
カップ付きのものもなんだろうけど、軽装過ぎだ。
「ずいぶんと疲れてるな」
「大会が近付いてきたからね。練習も気合いが入るってわけ」
摩耶はごろんと寝転がり、スマホを弄りはじめる。
桃瀬さんの予想はやはり杞憂だろう。
仮にも異性として意識している相手の部屋に来たらこんな格好をするはずがない。
摩耶はスマホを見ながらニタニタして脚を広げる。ショートパンツはやや緩めで、チョコミント柄の下着がチラ見してしまっていた。
摩耶にそんな気はなくとも、一般的な男子高校生の俺の目には毒である。
「なぁ、摩耶。疲れたんなら自分の家に帰ってのんびりしろよ」
「いいでしょ、別に」
「スマホ見てるなら俺の家にいる意味ないだろ」
「静かに。いま漫画読んでるんだから気が散るでしょ」
「だから家で読めって」
摩耶は本当に自由な奴だ。
ま、そう言うところは嫌いじゃないけど。
どうせ漫画に飽きたらお腹空いたと言い出すだろうから、俺は料理をはじめる。
今日はチキンステーキにする予定だった。
添え野菜を茹でていると、スースーという寝息が聞こえてきた。
「ん?」
見ると摩耶はだらしない大の字で寝息を立てていた。
「ったく。男子小学生かよ」
起こすのもなんだか可哀想なので、タオルケットをベッドから持ってくる。
「んんー……」
タオルケットをかけようとすると、摩耶が寝返りを打つ。
横向きになると普段主張が少ない胸元も、軽く谷間を作っていた。
「って、おい!」
ごろんと転がった弾みでゆるゆるの胸元から桜色したてっぺんが見えてしまう。
日焼けした肌と焼けてない白い肌のコントラストのせいでやけに生々しい。
「っとにもう」
隠すようにバサッとタオルケットを被せる。
こいつには恥じらいとか警戒心はないのだろうか?
料理が完成しても、まだ摩耶は目覚めない。
いつもなら音や匂いで目覚めるのに珍しい。
よほど疲れているのだろう。
「おーい、摩耶。そろそろ起きろー。夕飯だぞ」
「んー……」
反応はあるが起きない。
このまま寝かせてあげたい気もするが、夜寝れなくなるのも困る。
「摩耶。全部俺が食べちゃうぞ」
「……うーん……んっ……」
「夜眠れなくなるぞ」
タオルケットを剥ぎ取ろうとすると、摩耶が俺の首の後ろに手を回してぐいっと引き寄せてきた。
「ちょ、お、おい!」
どうやら睡眠を妨げられたくなくて抵抗しているようだ。
しかし二人きりの部屋で抱きつく姿勢になられるのはまずい。
「ほら、起きろ。寝惚けるな」
「ん……きゃあっ!」
目が覚めた摩耶は悲鳴を上げて俺から逃げる。
いつもよりワントーン高い女の子の悲鳴だった。
「勘違いするなよ。お前が抱きついてきたんだからな」
「う、うん。分かってる……ごめん」
「まったく。人の家に来て寝るなよな」
変な空気にならないよう、わざと明るい声でツッこんだ。
しかし摩耶は顔を真っ赤にしたままうつ向いていた。
「あたし、なんか変な寝言言ってなかった?」
「寝言? いや、別に」
「そ、それならよかった」
「なんか変な夢でも見てたのか?」
図星だったらしく、摩耶はビクッと震えた。
「し、志渡には関係ないだろ、スケベ!」
「スケベってなんだよ」
「おー、今夜はチキンステーキですか。なかなかいいですな、奥さん」
「誰が奥さんだ。ってか、誰目線だよ」
まったく。
学校ではキリッとしててしっかりものなのに、うちに来るとどうしてこうもだらけてお茶らけるのだろう、こいつは。
「んー、美味しい! 疲れた体に染み渡るね」
摩耶は目を細めてチキンステーキを頬張る。
「アスリートは鶏肉が基本なんだろ」
「さすが志渡。分かってるなぁ。いい奥さんになるよ」
「誰が奥さんだ、セカンド」
摩耶は食べっぷりがいいので料理の作り甲斐がある。
「なに、ニマニマしちゃって」
「いや、よく食べるなって思って」
「まぁねー。育ち盛りの食べ盛りだから」
「大きくなれよ」
「あ、いま、身長や筋肉ばっかでおっぱい大きくならないって失礼なこと思ったでしょ?」
「んなこと思ってねーし」
本当はチラッと思ったけど。
「あたしだって実は大きいんだからね、着やせするタイプなの」
「誤魔化すのは諦めろ、摩耶。タンクトップは着痩せしない衣類なんだよ」
ま、なんにせよ、こんな馬鹿話を出来る異性の友達がいるというのは、実にありがたいことである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます