第10話 ストーカー被害

 いつも誰かと一緒だと俺の身が持たない。

 摩耶がそう考慮してくれたので、今日の下校は誰の彼氏でもなくフリーだった。

 緊張から解放された俺は、のんびりと家までの道を歩いていた。


 しかし──


「まただ……」


 学校を出てからずっと誰かの視線を感じていた。

 以前もこんなことがあった。

 どうやら誰かに監視されている。

 俺を突き落とした犯人なのかもしれない。


 一体誰なんだ?

 桃瀬さんなのか、蒼山さんなのか、美羅乃さんか?

 それともまさか……


 十字路に差し掛かり、僕は走って家とは逆の方に曲がる。

 そして素早く電柱の裏に身を潜めた。

 案の定、慌てて駆けてくる足音が聞こえる。

 その人物がこちらに曲がった瞬間──


「お前は誰だ!」


 電柱の影から飛び出し、その人物を捕まえた。


「ひゃうううぅぅぅ!」


 俺が捕まえたその人物は、小学生かと見間違うほど小柄な女の子だった。

 捕まった小動物のように手足をバタバタさせている。


「お前は何者だ? どうして俺をつけ回している?」

「離してっ! 離してください!」

「逃げるなよ?」

「逃げませんから!」


 諦めたようで抵抗してこないので、そろっと手を離した。

 ボサボサの長髪で、前髪が目を半分ほど覆っている。


「で、誰?」

「わ、私は斑鳩いかるが古都子ことこ。怪しいものじゃありません」


 充分すぎるほど怪しい奴にそう言われても、信用なんて出来るはずがない。


「しょっちゅう俺を尾行して監視してたな?」

「そんなことしてません。ただこっそりあとをついていって、隠れて眺めていただけです」

「言い方を変えただけで同じことだろっ!」

「す、すいませんっ……」


 どうやらずいぶんと気の弱い子らしく、ずっと震えていた。


「もしかしてストーカー?」

「ち、違います! そんなんじゃありません!」

「やってることがストーカーそのものだろ」

「違うんです。わ、私は志渡くんの彼女なのです!」

「嘘つけ!」

「本当です! その証拠に志渡くんのことなら色々知ってます! 好きな食べ物、お風呂は何分くらい入っているのか、誰と仲がいいのか、何時くらいに寝ているのか、すべて知ってます!」


 やべぇ……

 これはガチモンの不審者ですわ。


 通常ミステリー小説では序盤に現れる怪しい人物は犯人でないことが多い。

 しかし彼女は違う。

 疑いようのない犯人候補筆頭だ。


「な、なななんですか? そんな目で見ないでくださいっ」

「警察に行こう。罪を認めれば情状酌量の余地もあると思うから」

「わ、私はなんにもしてませんってば!」

「みんなはじめはそう言うんだよ。詳しいことはお巡りさんが聞いてくれるから」

「ぴやぁああ! 私はなんにもしてないのにぃいー!」

「隠しても無駄だ。君が俺のことを背後から突き飛ばしたんだろ」


 ズバリ問い掛けると、ストーカーちゃんは目を丸くした。


「背後から突き飛ばされた? それってもしかして志渡くんが記憶喪失になった日のことですか?」

「とぼけても無駄だ」

んですね!」


 彼女はビシッと俺を指差してそういった。


「やっぱり? どういうこと?」

「あの日、私は志渡くんを見失ったんです。きっとスト……私が追いかけてきているのに気付いて、うまく巻いたんでしょう」


 いま自らストーカーって言いかけたな、コイツ。


「必死で探しても見つからなくて。探しているうちに、走り去っていく怪しい人影を見つけたんです」

「それは本当の話か!?」


 とんでもない有効な目撃情報である。

 まさかストーカーが役に立つことがあるなんて、夢にも思わなかった。


「怪しいと思って追いかけたんですけど、全然追い付かなくって。そうしている間に志渡くんが『虹の塔』付近で倒れているのが発見されました」

「逃げた人はどんな人だった? 身長は? 髪の長さは?」

「帽子を被っていたし、速すぎて追い付かなかったから背格好まではちょっと……」

「そうか……」


 見つけかけた犯人に逃げられたような、歯がゆい気分である。

 でもこれで誰かに突き落とされたかもしれないという可能性が一気に高まった。


 もっともすべてはこの子の作り話で、実際に突き落としたのは、やはりこの斑鳩古都子容疑者という可能性も高いけど。


「いま、私を疑ってましたよね?」

「そりゃそうだ。ストーカーの言うことを信じろっていう方が無理がある」

「私では、あそこから志渡くんを突き落とすのは無理なんですよ」

「小さいからか? そんなの不意を衝けばどうにでもなる」

「そうじゃなくて! うー、現場を見た方が早いかもです」


 仕方なく俺は斑鳩古都子と学校に戻り、現場の『虹の塔』へと向かった。

 塔は通常鍵がかけられており、中には入れない。

 俺が転落したのは塔の内部ではなく、塔に巻き付くように伸びる螺旋状の外階段からである。


 俺の事故が起きてからこの外階段も上れないよう、チェーンがかけられていた。

 とはいえそれは簡単に跨げるので物理的な効果は成していない。


「いいですか? 志渡くんはこの外階段から転落したんです」

「そうらしいな。でもここが現場ならお前が犯人じゃないって、どうして言い切れるんだ?」

「え? 分からないんですか? 志渡くんは背後から突き落とされたんですよね?」


 古都子はきょとんとした様子で俺を見上げる。


「もったいぶらずに教えろ」

「分かりました。じゃあご説明しますね」




 ────────────────────



 いつもお読みいただき、ありがとうございます!


 これで全ての主要人物は出揃いました。

 ここまでに志渡くんを突き落とした犯人がいます!

 それはいったい誰なのか、そして志渡くんは誰と結ばれるのか?

 ラブコメとミステリーを引き続きお楽しみください!


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