第2話 再会と動揺

 その日の授業は落ち着かず、手の震えが止まらないほどだった。

 一つに重なった鼓動、衝撃の再会の興奮があるのは当然だ。

 

 「おーい、何いちゃついてる?始めるぞー。」

 了が恵子に抱き着いて間もなく、教師が入ってきた。

 恵子は混乱と、男の人に抱き着かれた状況に恥ずかしさを覚え、狼狽えてたが、

 「あ、俺も授業だ!行かなきゃ。俺、今日、次で帰らないとなんだけど、授業終わったら話せる?」

 と了が言うと、恵子は混乱し声をあげれず、必死に頭を縦に振った。

 「じゃぁ、終わったら下に居るから!」 

 そう言って教室を出て行った。


 「ほらー、始めるぞー。」

 教師の言葉が全く耳に入っていない硬直状態の恵子を見かね、既に座っていた洋子が袖を引っ張って、「だ、大丈夫?授業だよー。」と小声で声をかけた。

 慌てて我に返り、恵子は転ばないまでも足をもつらせながら席に戻った。

 しかし、席に戻ってから手が小刻みに震えてるのが洋子から見えた。


 ***


 「ケイちゃん!」

 階下に降りると入り口の手すりに腰をかけ笑顔を見せながら手を挙げた。

 満面の笑み、その中に少年ぽさが残り、そこには恵子の知っている了が居た。

 「本当に了くんなんだね……」

 思わず口にすると、自然と涙がこぼれてきた。

 「あー、もう、泣くなよー。」

 そう言って了は立ち上がり、恵子の頭を自分の胸に寄せ、耳元で

 「実は俺も泣きそう。」と言った。

 見上げると了の瞳も潤んでいた。


 了の大きな手が恵子の頬を包んだ瞬間、恵子は周りの視線に一気に気づいた。

 「あっ!」といって半歩下がり、眼鏡を外して涙をごしごしとぬぐい、下を向いたまま大きく息をついた。

 そんな彼女をみて

 「やっぱりケイだ。」とまた笑った。

 「ほら、子供の時は眼鏡なかったから。でも俺わかったよ。見つけるって決めてたし。」

 少し屈んで顔を覗き込みながら、自信満々にいう了にどんな言葉をかけたらいいのか、思わず戸惑う。

 「ええと、あれ?新入生……なんだっけ?」

 「そうそう、色々あって一浪しちゃって、あと高校最初行かなかったりとか。」

 色々にしては色々ありそうだが、聞いていいものなのか、そしてそれ以前に周りの目線が『なぜこの子がイケメンと?』という言葉になって入ってくる。

 

 たくさんの視線と何を喋ったらいいかと戸惑っていると、 

 「リョウ!授業終わったら即門に来いって言ったでしょ。」

 了の背後から女性の大声が聞こえた。

 「あー、山下さん、すいませんー、久々の学校だったので楽しくて~」

 了は振り返って飄々と答えると、

 「マネージャーさんなんだ」と恵子に言った。

 「あ、デビューするって……」

 「お、ケイちゃんが知ってるなんて、意外。」

 「みんなが言ってたから。」

 「そっかー、やっぱり知らなかったかー!」

 「うん、ごめんね。」

 「いや、そうだと思ったよ。だから俺が見つけるって思ってたし。」

 そう話し続けると、山下が引き続き

 「リョウ!行くよ!」と叫ぶ。

 「行く行く!」と振り返って言うと

 「携帯と、メアド。後で連絡して!」といって恵子にメモを手渡し去っていった。


***


 学食の隅で弁当を机に出しつつもその横のノートをめくると、さっき了から渡されたメモが挟まれていた。

 もう既に一度見たが、ノートをちょっと開けては隙間から覗き見てしまう。

 本当に信じられない。あの、了くんが現れるなんて。

 ドキドキしながら覗き見ると急に目の前が暗くなった。

 「ねぇ、福山リョウと知り合いなの?」

 気が付くとお盆を手に持った美紀が目の前の席に座らんとばかりに居た。


 思わずノートをさっと閉じると、

 「連絡先教えてもらったの?すごいね!元カレとか?そんなわけないか。あはは」

 にやにやしながら聞いてくる。元カレ、そんな私が非モテであることを知っているのに、嫌味かな、という事には後で気づいたけど、

 「こ、子供の頃、同じ学校で……」と素直に答えた。

 「へー、同級生だったんだ。友達だったの?連絡先交換した?」

 そう言われると、恵子は反射的にそっとノートを手元に寄せた。

 「ねぇ、私にも教えてくれない?福山くんのメア……」

 と美紀がそう言いかけたところ、

 「ねぇ美紀、そういうの良くないよ。ケーコちゃんめっちゃビビらせてる。マジ怖いよ。ひくわ。友達でもないのに急に。私、向こうに行くから。」

 そう言って洋子は立ち去った。

 怖い、と言われ周りの目も気になったのか、美紀は再びお盆を持ち、洋子の後を追った。

 (助けてくれたのかな。瀬戸さん、変わっている人だと思ったけど。)


そう思って手元のノートに再び目を落とし、ゆっくりとカバンにしまい、ふと思い出した。

(そういえば同級生ではなかった。)

 彼とで会った時恵子は小学校5年生、了君は6年生だった。

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