第5話 村での仕事
昼食のあと、フォーゲルに連れられてバロンはペストの集落を見て回ることになった。バロンを住民たちは不信感に満ち溢れた顔でじろじろと見たが、バロンはペストたちを同じ表情で見返した。
髪色や目の色でだいたい能力がわかるが、ここのペストたちのほとんどが、風、水、大地のいずれかの能力をもっていた。
「こんにちは、フォーゲルさん」
挨拶してきたのは真っ黒な髪と目をもったアジア人。
「おお、こんにちは、デーン。いつも温かい炎をありがとうな」
「いえいえ、この村に貢献することが私の使命ですので」
彼はにこっと笑って、バロンに一瞬目を向けてから去っていった。
「うちには火の能力を持っている人がデーンさんのところしかなくてな。タイ人なんだ。辛い物を食べたくなったらそこへいけばいい」
解説しながらフォーゲルは進んでいく。村人たちは彼のそばを挨拶しながら通り過ぎていく。
いたって普通の村だ。そして普通の人々。人類の敵、ペストには見えない。能力は見る限り日常的に使っているようだが。
「よし、じゃあ今日バロン君にはこの仕事をしてもらおう」
フォーゲルは小麦畑のひとつを指さした。
「雑草取りを頼みたい。ちょうど小麦の茎がだいぶ伸びてくるころでな。ぜひ小麦に邪魔をする草を排除してほしいのだ。こればっかしは大地能力をもった者でもできないんでな」
「はぁ……」
「ちゃんとやってくれよ。『働かざる者は食うべからず』っていうのが我々のスタンスなんだ。では」
フォーゲルはすたすたとまたどこかへ歩いて行った。監視がなかったとしても、バロンがどこにも逃げられないことを彼は知っているに違いない。能力がなくては上の岩の扉にはいけない。
仕事は順調に進んだ。バロンの家はもともと農家だったのだ。少しだけ親を手伝ったことある。なんだか懐かしい気分がした。もし、自分の家族が死んでいなかったら、殺しが生業の安保隊なんか入らずにそのまま農家を継いでいただろう。
「へえ、安保隊のくせになかなかうまいじゃん」
聞いたことのある声がして見上げると、木の上に、自分をこの村まで運んできた男、ハンスがいた。
「実家が農家だった」
また嫌味を言われたが、バロンはそれだけ答えた。
「奇遇だね。僕もだよ」
「ほう、じゃあお前の家族も能力を使って小麦の大量生産して周りの土地を買収していったのかい?」
「まさか! 能力を使えたのは僕だけだったし、小さいころコントロールが苦手だったからあまりそんなことはできなかったよ」
「……そうか」
「なに、君の農村ではそんなへんなことをする輩がいたのかい?」
「ああ、そうだ」
仲悪かったはずのハンスが、まさか自分の過去を話す一番最初の人物となるとは。バロンは少し皮肉な笑みを浮かべたが、丁寧に詳しく語り始めた。
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