2-3
部屋の中にミシンを動かす音が
私たちはさっそく作業を始め、まずはキュロートから作ることにした。
「次の聖騎士の
エマさんの指示で作業が始まり、私は型紙を作ったあと、それに沿って布を切るのは他の人に任せていた。針と糸でミシンでは処理しにくい部分を
私の加護はなぜかミシンでは付与できないのだ。自分で針を持ち、糸を縫い付けていく工程がないと効果が出ない。
他の聖女からも
(でもあの時、他にもそういう聖職者はいますって聞いたような気がするのよね)
教会で働いていれば、いつかその人に会えるだろうか。
そんなことを考えながら
(わ、わぁぁ!
その美少女が私を指差し、
「そこのあなた。廊下にいらっしゃい」
と言った。綺麗な声なんだけど、まるで命令するような口調だ。
(……私? なんで? 初めて会う人なのに)
しかしどう見ても美少女の指は私に向けられている。首を傾げながら席を立つと、エマさんが「あっ……」と何か言いたそうに声を上げた。
でも美少女が
(この人とは初対面だし、挨拶した方がいいよね)
聖女として働き出して一週間ぐらいだから、まだ挨拶も
「ご挨拶がまだでしたね。私はヴィヴィアンといいます。未熟者ですが頑張りますので、どうかよろしくお願いします」
ぎこちないカーテシーをすると、美少女の視線がさらにキツくなる。
「あなたに先に話すことを許した覚えはないわ。……これだから
「えっ!? どうして田舎もんって分かったんですか? 今は聖女の服を着てるのに!」
こんな
「あたくしは上位貴族の
「ああ、そういうことですか! よかったぁ……!」
「……何を喜んでいるのかしら。自分がバカにされているという自覚はないの?」
相手の
(
聖職者のほぼ全てが上位貴族ではあるが、クラリーネ様からは「聖職者の間では貴族としての
目の前の美少女は大聖女でも監督官でもない。つまり私たちは同列のはずだ。
疑問が顔に出ていたのか、彼女は得意げにふっと笑った。
「あたくしはルシャーナ。ルシャーナ・ルーチェ・エバンスよ。――ああ、これだけの
もう少しで「あっ」と大きな声を出すところだった。
(アレク様が言ってた聖女って、この人のことだわ!)
教会で働き始めてすぐの頃、彼は私に「ルシャーナというハニーブロンドの聖女には近づかない方がいいよ」と忠告していた。その時は過保護だなぁと楽観的に考えてしまい、適当に「はい」と返事をして忘れてしまったのだ。
フラトンではハニーブロンドはかなり珍しい。名前と髪の色が記憶を
(なんでそんなこと言うのかなって、不思議だったけど……。こういうことだったのね)
確かにこの公爵令嬢の性格を知っていれば、私とは気が合わなそうだと簡単に予測できただろう。
「あの男に気に入られたからって、上位貴族の仲間入りをしたと
(やっぱりだわ。この人もアレク様のこと知ってるみたい)
二大公爵家という関係なら、家を
過去に何かあったのかな、と考えながら「はい」と返事をしておく。
「聖女としてもっとも優先すべきは、神聖力を持つ子を産むことよ。服のデザインなんか、平民がやる仕事なの。余計なことをしないでくださる?」
(あっ、これが本題ね! 新しいスカートが気に食わないって言いたいんだわ)
「ルシャーナさんは新しいデザインのスカートは嫌なんですね? ではあなたの分は、今までのデザインで作っておきますね」
気を
ルシャーナ嬢は
「
そして肩を
「ご、ごめんねぇ……。あの人のことまだ話してなかったわ。つらかったでしょう」
「大丈夫です。確かに
「ヴィヴィさん、強いわね……! その調子ならあの人とも張り合えるかもしれないわ。ルシャーナさんはね、現時点では最も報奨に近いって言われてるのよ。回復魔法の詠唱が早くて正確だし、強度の調整も得意なのよね」
「でもあの人、私のことは
デザインなんか平民の仕事だと言ってたから、私のことは貴族とも思ってなさそうだ。
「本当に歯牙にもかけない相手だったら、わざわざ
「……意地?」
「あっ……私ってば本当に言葉足らずだわね。あのね、エバンス家は――」
エマさんが話してくれたのは、聖職者の古い歴史だった。
フラトンが建国された際、聖騎士団の団長はフェロウズ家から、そして大聖女はエバンス家から選ばれたらしい。それが近年までずっと代々続いた結果、聖職者たちは二つの家の
しかし十年ほど前から、エバンス家が後押しする大聖女や大神官が問題を続けて起こしたため、
「だからまあ、ルシャーナさんにとってはヴィヴィさんがライバル候補ってことなんだと思うわ」
「ライバルにはほど遠いですよ……。私まだ回復魔法をちゃんと詠唱できないんです」
「詠唱なんて場数を踏めば大丈夫よ。彼女が一番気にしてるのは、ヴィヴィさんが持ってる不思議な加護だと思うわ。あなただけの特別な力だもの」
「そう……なんでしょうか」
エマさんに言われても、やっぱりまだピンとこない。
(聖女なんだから、加護より回復魔法を使えることの方が重要よね……)
服のデザインを考えるのはすごいことかもしれない。魔物を寄せ付けない加護も役に立つだろう。
でも聖女なのに回復魔法を使いこなせないなんて、聖職者としては失格なんじゃないか――そんな考えが頭の中をちらついて、ぎこちない笑顔しか返せなかった。
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