1-1
私の故郷レカニアは、フラトンの
広がるのは牧草だらけの
草と牛が全てのような貧しい土地だけど、グレニスター
「ただいま、お父様。お使い行ってきたわよ」
馬に乗って家に
うちの家はそこそこ広いけどボロすぎて、何度直してもどこかが雨漏りする。領主自ら危険な屋根の修理をしているのは、業者に頼むお金がないからだ。
父は私に手を
「すまんな、ヴィヴィ。助かったよ。……ところでお前、またそんな
「いいでしょ、すごく動きやすいんだもの。これなら馬にもすぐ乗れるのよ」
私が着ているのは、シャツとスカートというごくありふれた服装だった。
でもスカートは少し
機能性重視で作ったスカートだから王都で流行している服ほど洗練されてないけど、シンプルなデザインは自分でも気に入っている。これなら農作業だって可能なのだ。
(やっぱりこの服を作ってよかった。これならズボンよりは
我が家はお金に
仕立て屋を呼べるわけもなく、家族の服は自然と私が作るようになった。でも仕事というよりは
「お父様は不満そうだけど、こんな
「そ、そうかもしれんが……。
何か言っている父はほっといて家に入ると、マリーさんが
「お
「ああ、
なぜかはよく分からないけど、私が
レカニアの森の奥には大人の
クリスは
クリスは手ぶらだったので、身につけていたのは服ぐらいのものだったのだ。
「でも私が縫ったものって、ずっと効果があるわけじゃないのよね。大型の魔物には効かないみたいだし。聖職者の加護みたいなすごい力なら、どんな魔物にも効いたのかしら」
「ゴドーさんなら
あれから三年がたち、私の魔物よけの効果も色々と分かることが増えてきた。効果は三ヶ月ぐらいで切れるとか、ゴーレムみたいな大型の強い魔物には効かないようだとか。
炭焼きなどの職についている人はどうしても森に行く必要があるし、魔物は柵を
そのため今でも私に縫い物の
「レカニアで魔物に
「そうだといいけど……。私も子どもの時に魔物に追いかけられたことがあるけど、ここ数年は領内でほとんど魔物を見なくなったわ。
「ただいまー」
料理ができあがる
「またグラタンかぁ。僕、お肉が食べたかったな」
まだ十歳のクリスは領地の子どもたちと外で遊んできたようで、
「うちには毎日お肉を買うような余裕はないのよ。そのかわり牛乳とチーズは食べ放題! 最高でしょ」
「おいしいけど、何日も続くと
父は気まずいのか、ずっと
「お祖父様が、せめてもうちょっとお金を残してくれたらよかったんだけどね……」
祖父は貴族らしい
「お祖父様が亡くなったのってずっと前でしょ。ねえ、父様。どうしてうちは貧乏なの? これでも一応、貴族なんだよね?」
クリスの真っすぐな問い
祖父を見て育った父は、ああはなるまいと固く心に
レカニアの主な収入源は
「
「じゃあずっと貧乏決定? 今のままだと、僕は貴族なら誰でも入る学校にも行けないんでしょ。そうなったら貴族やめて、酪農家にでもなろうかな。その方がお金になるかも」
「やめてくれぇ……! 耳が、耳が痛い……!」
とうとう父が耳を押さえて
今こそあの話をするチャンスだ。
「安心して、二人とも。今日ね、隣の領地ですっごくいい話を聞いてきたの。来年の春に王都で春装祭があるでしょ? それでドレス
任せなさい、と胸を
「えーっと……それってつまり、
「ないわよ。でも今から稼がないと、クリスの二年後の入学に間に合わないでしょ。私は学校に通わせてもらったし、クリスも行った方がいいわ。学校に行かない貴族なんて、世間から
フラトンの貴族は十二歳になると、国内各地にある貴族向けの学校に三年間通う。貴族と
その
父がかなり無理をして私を学校に行かせたのも、それが理由だった。
「やめるんだヴィヴィ、王都は危険だ! レカニアとは比べものにならないぐらい、人間がうじゃうじゃいるんだぞ。その中には変な
しばらく放心状態にあった父が、
「お父様、心配しすぎよ。王都って王宮騎士団と聖騎士団が守ってるんだから、危険なことなんてないわよ。それにね、ちゃんとお針子用の
「騎士団……聖騎士……」
ハッとして、何か考え込むように
「姉様は洋裁が得意だもんね。それにこんな田舎じゃ出会いなんてないし、働くついでに王都でカッコいい義理のお兄さんを見つけてきてよ!」
「はあ? あのね、私はお金を稼ぐために行くのであって」
「いや、それは名案かもしれんぞ。ヴィヴィはセシルに似て美人だから、きっと騎士の誰かに
「お、お父様……」
夢を見すぎじゃないだろうか。父にとっては母が絶世の美女だったんだろうけど、だからといって母似の私が聖騎士に見初められる確率はほぼゼロに近い。
(聖騎士って、フラトン全体で七十人ぐらいしかいないのよ。そんな
グレニスター家は貴族なのに、
でもそれを言ったら出稼ぎに行けそうな空気を
「任せといて。出稼ぎのついでに、カッコいい
父は
夜になって
「王都って、聖女とかもたくさんいるんでしょ? いわゆる聖職者って人たち」
ベッドに横になったクリスが、どこか楽しそうな口調で
「聖職者ってさ、
「火なんか出さないはずよ。学校の授業で少し聞いたけど、聖職者が使うのって神聖魔法って言うらしいわ。誰かの
「ちぇ、つまんないの。姉様、聖職者たちのことで何か分かったら手紙で教えてよ。あの人たちって
「分かったわ、手紙を書くって約束する。魔物よけグッズもついでに送るから、領民の人たちに配っておいてね。さあ、今日はもう
クリスが約束だよと呟いて目を閉じる。私も湯浴みをして、期待と少しの不安を胸に
数日後に王都へ旅立った時も、私の頭の中はお金を稼ぐことでいっぱいだったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます