第19話

 学園には制服で通うらしい。

ということで、今日は屋敷に洋服屋さんを呼んで、採寸を行ったり、服についての要望を伝えているのだった。

 学園の制服の見本も実際に持ってきてもらった。

 白を基調としたデザイン。女子はロングスカート。男子はズボン。

 制服は毎日の服装を考えなくてすむから楽ですわねー。

 まぁ、服装のコーディネートは、私が考えなくてもカレンがしてくれるけど――。


「スカートはもっと短いものはないのですか?」

「お嬢様?」


「ロングスカートと膝上までの2種類がいいですわね」

「お嬢様?」


 私が要望を口にするたびに、一緒に部屋にいるカレンが優しい口調で一言「お嬢様?」と言ってくる。この一言の意味はこうだ。

「お嬢様はいったい何を言ってるんですか!? 止めてください!」

 だが、私はカレンの静かだが迫力のある言外の圧力を無視して要望を伝えていく。


「ズボンも欲しいですわね~」

「お嬢様?」


「ズボンも通常のものと膝上までの丈の2種類がいいですわね」

「お嬢様?」


「あと刀や木刀を腰に携帯できるようにしてくださいな」

「お嬢様?」


「こんなところですわね。カレンなにか不足はありますか?」

「お嬢様、不足はありませんが――」

「では、これでよろしくお願いいたしますわ」


 そして洋服屋さんは帰っていった。

 私はカレンが淹れてくれた紅茶を飲みながら学園生活に思いをはせる。


「学園生活が楽しみですわね~」

「お嬢様、なんですか!? あの注文は!?」

「え? 必要なことを言っただけですわ」

「短いスカートや、男性用ズボンや、刀を携帯することが必要ですか!?」

「必要ですわ! ロングスカートでは剣を扱うときに動きにくいでしょう? ですから、スカートを短くするか、ズボンが必要なのです!」


「アーレお嬢様――。まさか、学園でも剣を振るつもりですか!?」

「カレン。まさか、私が剣をあきらめたと思っていたのですか!?」


 セージュ様に会えることは手紙で約束が出来ている。

 しかし、それだけではイチャイチャ生活までの道のりは遠いと思うのよね。

 やはり剣という二人の共通点を作らなければ。

 私とセージュ様、二人の共通点。ぐふふ。


 カレンは天を仰いでいる。

 カレンも私を心配しているのだろう。ここは安心させてあげよう。


「カレン。何事にも初めてはつきものです。学園で剣を振る女が一人いたって、どうってことありませんわ」

「……」

「ちょっと男子にまざって剣を振るために男装することも、決しておかしなことではありません」

「……周囲からは変人だと思われるのでは」

「最初は偏見の目で見られようと、努力することできっと理解をしてくれますわ」


 私は諭すように優しくカレンに語りかける。

 カレンは心配性で大袈裟ですからね。


「ハッ! お嬢様! 絶対に学園で殿方をボコボコにしてはいけませんよ!」

「ふふふっ。カレン、なにを言っているのですか。力の強い殿方を、私のような非力なものが、ボコボコになど出来るわけないでしょう?」


 やっぱりカレンは心配性ですわね。


「そうだった――。お嬢様の認識は――」


 カレンが頭を抱えてぶつぶつ言っている。


「カレンも私が学園に入学することで、離ればなれになるので心配でしょうが――」

「? 離ればなれになどなりませんよ」

「え? ここから学園へは遠くて通学出来ないしょう?」

「そうですね」

「では、私は学園の寮に入るのでしょう?」

「はい。そして付き人も寮に入るのです。ですから、私とドーラはお嬢様について行きますよ」


 なんだって。

 そういえば、貴族のキャラクターの周囲には執事や侍女がいたかしらん。

 前世の記憶が遠い彼方になってしまって、セージュ様のこと以外はあんまり思い出せないわね。

 

「では、なにも心配ないではないですか。カレンは私の学園生活を安心して見ていなさい」

「お嬢様。全然、安心出来ませんよ――」


 こうして学園入学への準備は着々と進んでいく。

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悪役令嬢は攻略不可能キャラとイチャイチャしたい えふの @robaa-mimi

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