第17話
とある午前中に私が自室にいると、玄関の方からカレンと誰かが言い争っている声が聞こえてきた。
お客様にしては騒がしいですわね。
様子を見に行きますか――。
「だーかーらー。アーレお嬢様に直接会わせてくれって言ってんだろ?」
「ですから、まずは私に用件を仰ってください」
「直接じゃなきゃダメなんだよ。いいから入れてくれって」
「ダメです! なんなんですか? あなたは!?」
様子を見ると、玄関でカレンと見知らぬ女性が言い争っていた。
女性は、赤いロングの髪。たれ目とそばかすが特徴的だ。
「カレン、なにを揉めているのですか?」
「お、お嬢様――」
「お! あんたがアーレお嬢様か――」
「どなたですの?」
「あたしはドーラ。あんたが変な坊さんに頼んで探させてたやつだよ」
「ああ! ティー先生に頼んでいた件ですか」
まさか本当に見つかるとは。
「では、ドーラ様。庭のテーブルでお話しましょう。カレン、お茶の用意をお願い」
庭のテーブルで、私はドーラと向かい合って座っている。
お茶を用意したカレンを下がらせて、私は話し始めた。
「ドーラ様――」
「様はいらねぇ。ドーラでいいよ」
「ドーラ。あなたは私が求めていたものですか?」
「いいねぇ。単刀直入なのは好きだよ」
「で、答えは?」
「そうだよ。あたしはサキュバスだ」
サキュバス。
彼女たちは人を魅了したり、誘惑し淫らな夢を見させることが出来るという。
「人を魅了させる魔法が使えますか?」
「ああ」
「人に夢を見させることも?」
「出来るね」
「それらは私でも習得が可能ですか?」
「魅了魔法は習得出来るかもな――。夢を見させるのは無理だ。ただし、あたしと一緒に夢の中に入ることは出来る」
「十分ですわ」
「はっ! サキュバスを雇いたいお嬢様がいるなんてね」
ドーラはニヤニヤしながら物珍しそうな目でこちらを見ている。
「で、あなたの求める対価はなんなのですか?」
「あんたの魔力だよ」
「魔力ですか――。どれくらいの量なのですか?」
「そんなに多くないよ。そうだね――。長旅で疲れたからね。ここで試そうか?」
そう言ってドーラは立ち上がってこちらに近づく。
「では、お嬢様。お手を拝借」
そう言って、ドーラは私の手を取り、手の甲にキスをした。
手の甲にドーラの唇の柔らかい触感が伝わってくる。
魔力がちょっと吸われたのがわかった。
「ぷはー。これくらいだよ」
「え? これだけの量でいいんですの?」
「あんたは魔力量が多いからそう思うだけさ。普通の人間はこんなの何回もされたら、たまったもんじゃないだろうね」
「ふーん。そうですか」
これならドーラに魔力を毎日求められても大丈夫そうだ。
「で、サキュバスを雇うほどお嬢様が好きな男ってのはどんな奴なんだ?」
「男? 私が好きな人は女性ですわ」
「は?」
「だから、好きな方は女性ですわ」
「おいおい! それだったら雇うならインキュバスだろ!」
「インキュバスは男でしょう!? 女同士じゃないとダメなんです!」
「まじかよ――」
ドーラは頭を抱えている。
「え? あなた女性相手ではダメなのですか? 女同士でエッチなことは無理?」
それは困るぞ。私のパーフェクトプランが崩れてしまう。
「いや、無理じゃねぇけどよ――」
「では問題ないではないですか」
なーんだ安心した。
「いやいや、やっぱり待て。お嬢様の気になる相手が女性? 本気か?」
「ドーラ、愛は性別を超えるのですよ」
「それを手伝えってか?」
「今後、手伝う必要が出てくる可能性があるかもしれないという感じですわ」
「あ? なんでそんなふわふわした表現なんだ? どういうことだ?」
「まだ、実際に会ったことがないですからね」
「会ったこともないのかよ!? 大丈夫かよ!?」
「来年! 学園に入学すれば会う約束までは出来ているのです!」
「ああ、そうかい」
ドーラはややあきれた顔をしている。
「で、私に雇われるのは?」
「いいよ。こっちとしては、安全に安定して魔力が吸えるんだ。文句はないね」
「では、よろしくお願いしますわ」
「よろしくな。お嬢様」
私とドーラは握手をする。
学園入学に向けて着々と準備が進んでいく。
私の夢のイチャイチャ生活へのパーフェクトプランは完璧ですわ!
もし失敗した場合の挽回策もこうやって用意している。
学園入学が楽しみだなぁ。ぐへへ。
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