第10話

「アーレお嬢様。このあと、近くで大会出場者が集まるパーティがあるようですが、どうされますか?」

「シーザーにお祝いの言葉をかけるべきでしょうね」

「では、さっそく準備したします」


 そういうことで、私は侍女のカレンと一緒にパーティ会場へ移動した。

 

 パーティ会場内では剣の大会に参加したものたちが、葡萄酒を片手に談笑をしていた。その場にはアーレの屋敷に招いた者たちもいた。こちらの顔を見ると驚いたようだ。

 私は相手に小さく手を振って、「覚えていますよ~」と合図する。そんなやり取りを続けているうちに、ようやくシーザーを見つけた。


「お久しぶりですわね。シーザー様、本日は優勝おめでとうございます」

「こ、これはアーレお嬢様。ありがとうございます。ほ、本日はどうしてこのようなところへ?」

「このような大会があることを初めて知ったので、見学に来ましたの」

「そ、そうですか」

「今日のシーザー様は、私と稽古した時よりも剣が速かったですわね。もう一度、屋敷へ稽古をつけに来ませんか?」

「ご、ご冗談を。アーレお嬢様にはかないませんよ」

「お世辞が上手ですのね」


「お嬢様は最近いかがでしょうか」

「この会場に何人もいますが、シーザー様と同じように屋敷へ剣の稽古をつけに来てもらっていますわ。でも、もう候補者が少なくて困っていますの」

「そ、それは大変ですね」

「そうですわ! シーザー様からご紹介いただける方はいないかしら?」

「わ、私からですか?」

「ええ、どなたか強い方をご存じありません?」

「そうですねぇ――。うーん。ああ、あの方ならばお願いだけはできるかもしれません」

「どなたですの?」


「セージュ殿はご存じでしょうか?」


 え?


「セージュ様……ですか?」

「はい。セージュ殿ならば、アーレお嬢様のお相手がつとまるかと」


 なんで、その名前がここで出てくるの!? まだ学園入学前なのよ!? でも、たしかに。セージュ様を屋敷に呼んで、二人っきりで稽古が出来れば! あんなことやこんなことが起こったりして! ぐへへ。


「それは是非ご紹介いただけるとうれしいですわ」

「では、私からお願いしてみましょう」

「ありがとうございます。では、そろそろ失礼しますわ。ごきげんよう」


――――――――――――――――


 驚いた。

 まさかアーレお嬢様が今日の大会を見に来ていたとは……。

 お嬢様が帰ったあと、周囲の人々が口々に話しかけてくる。


「シーザー殿、アーレお嬢様とお知り合いなのですか!?」

「ええ。以前、屋敷に来て剣の稽古をつけて欲しいと」

「シーザー殿もでしたか。私もですよ」

「そうなのですか!?」

「稽古は、その、どうでしたか?」

「いや、それは……。アーレお嬢様との約束で秘密なのです」

「あの、もしや、シーザー殿も、アーレお嬢様と誓約書を?」

「え、では、みなさんも?」


 周囲を見渡すと、みんな神妙な面持ちになっていた。

 みんな、アーレお嬢様の屋敷に招かれて、私と同じような目にあったのだな……。


「アーレお嬢様とは技量を高め合うことはしても、敵対することは絶対にしたくないな」

 誰かがそっとつぶやく声が聞こえた。

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