第6話
ある酒場で、ツバキは奥のテーブルで葡萄酒を飲んでいた。と、その酒場に新しく客が入ってきた。店内を見渡すと意外そうな顔をしてツバキに近いていく。
「ツバキ殿ではないか。こんなところで珍しい」
「ティー殿か。そちらも珍しい」
「相席よろしいかな?」
「どうぞ」
ティーはツバキと同じ葡萄酒を頼むと、二人で乾杯をする。
「なにやら楽しそうですなぁ」
「そうかもしれませんね。しかし、困ってもいるのですよ」
「あのツバキ殿が、なにに困っているのか想像もつきませんな」
「ティー殿も原因のひとつですよ」
「なに!?」
「アーレお嬢様の家庭教師をしていたでしょう?」
「では、ツバキ殿も?」
「やっかいな魔法をいろいろと教えたみたいですね」
「まさか私以外に使えるようになる人がいると思いませんでしたからなぁ」
「アーレお嬢様の剣を見たことがありますか?」
「ないですなぁ。それよりも、あのツバキ殿が剣を人に教えていることに驚いていますなぁ」
「ということは、あれは我流ですか。家庭教師を切り上げて正解でしたね」
ツバキは、この5年でのアーレの成長ぶりを振り返りそう言った。
「どのような剣なのですかな?」
「剣技のみなら、まぁほどほど」
「ふむふむ」
「なんでもありなら拙者を追い詰めましたよ」
「なに!?」
「このまま続けていれば、将来どちらかが死ぬだろうと思って家庭教師を辞めましたよ」
「それほどか」
ツバキは葡萄酒を一口飲むと会話を続けた。
「お嬢様に憧れの人がいるようでしてね。剣で世界一になりたいといいましてね。さらに才能がありました。調子に乗って鍛えてしまいましてね」
「世界一とは、目の前に居るではないか」
どうやらツバキ、剣の世界では本当にすごい人であったらしい。
「それが、どうやら私ではなかったのですよ。こちらも勘違いしていましたねえ」
「で、何を困っているのですか」
「強くなりすぎたアーレお嬢様の将来ですよ」
「ツバキ殿のようにかな?」
「私は落ち着くところに落ち着いたので、もうよいでしょう? でも、お嬢様はまだ10歳。しかも、将来、剣の世界で世界一となれば初の女性ですよ」
「で、どのようなお考えを?」
「まずは、お嬢様の憧れの人に剣を教えて来ますよ。どうやら会うまであと6年あるのでね」
「それで解決するのですかな?」
「まあ、時間稼ぎかもしれませんね。でも、やらないよりはよいでしょう?」
「そうですなぁ」
「うまくいけばいいんですがね。将来、教え子と死闘はしたくありませんからね」
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