第5話
私、アーレは10歳になった。光陰矢のごとし、時間が過ぎるのはあっという間だ。剣と魔法、ときどき学問にいそしむ日々。
今日は家庭教師のツバキ先生との剣の授業だ。木刀を手にして先生と対峙する。
まずは“剣技のみ”で。
お互いの距離は5mくらい。両者ともに片手に木刀を下げ、自然体で対峙する。
次の瞬間、私は間合いをつめて攻める。が、ツバキ先生へ向けて振るった木刀は避けられるか、木刀で受けられた。
その合間にもツバキ先生の木刀が、私の体を斬ろうと攻めてくる。それを先生と同じく、私は避けるか、木刀で受け流す。
その木刀のやり取りの速度が徐々に上がっていく。両者無言。だが、木刀の攻防のやりとりがお互いの言葉の代わりになっており、会話をしているようだ。
これはどうですの?
惜しい。
なら、ここ!
さすが、ではこちらはこうしましょう
お互いの口元にうっすらと微笑みが浮かび、攻防の速度が上がるにしたがって、その微笑みの口角が徐々に上がっていく。
ツバキ先生の木刀の速度がまだまだ上がっていく。私は徐々に防御に徹するしかなくなっていく。
いかがか?
まだまだですわ!
まだツバキ先生の動きが、木刀の切っ先が、目で追える。まだやれる!
が、何度か斬りあった次の瞬間、ツバキ先生が後ろへ攻防の間合いの外に飛ぶ。
「そこまでにしましょう」
「はい」
このあたりが私の剣技のみの限界らしい。まだツバキ先生の限界へは届かない。
「次はどんな方法でも、なんでもありの形式で」
ツバキ先生がそっとつぶやく。
ぐふふ。ここからが本領発揮よ!
私は自分に魔法をかける。速度向上、筋力向上の補助魔法。そして反射魔法でつくった魔力の鏡を配置していく。
「いきますわよ」
「どうぞ」
私はその場で木刀を振り、周囲を数度斬る。すると、私の斬撃が、私の周囲とツバキ先生までの間合いに配置した反射魔法に反射され、先生の周囲から襲い掛かる。
さすがツバキ先生。反射魔法の斬撃はすべて受けるか、避けられる。
次の瞬間、私が一気に間合いをつめる。なお、間合いをつめる間も、私は周囲を斬りつけながら反射魔法でツバキ先生へ斬撃をおくる。
ツバキ先生が反射魔法の斬撃を受けているその横から私が斬りこむ。が、避けられた。
ここからの斬り合いはさっき試合の剣技のみの比ではない。私は補助魔法で底上げした体での斬りこみと反射魔法の斬撃で一気にツバキ先生へ攻め込む。
どうかしら?
さすが。
後ろの斬撃も気をつけてくださいね。
ううむ。
これは?
まだまだ。
ツバキ先生の体へ私の木刀の剣先がかすりだす。ツバキ先生は防御に徹するが、その隙をさぐり斬撃を送り込み、息をする間もなく斬りつける。
どうかしら?
まだ――。
どう?
――。
斬れる!そう思った刹那。
「そこまで」
ツバキ先生がそろりと言う。
お互いに木刀を止める。ツバキ先生の木剣は反射魔法の斬撃を受けた位置で止まり、私の木刀はツバキ先生の首に触れるか触れないかの位置で止まっていた。
剣技のみならツバキ先生を超えられず、なんでもありならツバキ先生を追い詰めることができる。そんな位置に私はいた。
「惜しかったですわ」
「もう、なんでもありだと拙者でも危ないですね」
「でも、剣技のみではまだまだですわ」
「相変わらず志が高い」
「家庭教師に勝てなくては、剣の達人には認められないでしょう?」
「お嬢様が目指しているという方ですか。そういえばお名前を聞いていませんでしたね」
「セージュ様といいますの」
「セージュ? 残念ながら拙者は知りませんねぇ」
なんだと!? こらぁ!!
まぁツバキ先生は変人だから知らないのだろう。ああ! あの凛々しいお姿を知らないなんて、かわいそうに。
「しかし、うーん」
ツバキ先生はなにやら腕を組んで考え始めた。
「セージュ殿とはお知り合いなのですか?」
「16歳になったら入学する学園で知り合うのです」
「いままでお会いになったことは?」
「? ありませんわよ」
「そうですか」
「どうしたんですの?」
「お嬢様、拙者から教えられるのは、ここまででしょうねぇ」
「え?」
「いや、これまで大変お世話になりました」
「えーと、これからは自主練習を行えばいいんですの?」
「そうですね。あとは父君にお願いして他の方々と試合をすればよいでしょう。候補者は拙者から父君にお伝えします」
「はぁ」
「あと、試合を行う際は、なんでもありの場合は試合内容を他言させぬよう」
「どうしてですの?」
「剣は手の内を知られてしまうと、どうしても相手に不利になりますからねぇ」
「それはそうですわね」
「剣技のみの試合はよいですが、なんでもありの場合は、くれぐれも秘密に」
「わかりましたわ」
そういうことで、剣の家庭教師だったツバキ先生は去っていった。
なお、次の日の魔法の授業でもティー先生が突然いいだいした。
「お嬢様、拙僧から教えられるのは、ここまでですなぁ」
「え?」
「いや、これまで大変お世話になりましたなぁ」
「え、これからは自主練習を行えばいいんですの?」
「そうですなぁ。これ以上は学びたい魔法があれば魔導書か学園などで学ぶのがよいでしょうな。お嬢様は剣の道に進みますからなぁ」
「それもそうですわね。わかりましたわ」
そういうことで、魔法の家庭教師だったティー先生も去っていった。
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