第4話

「では、本日も拙者の前で木剣を振ってください」

 誰だよ、家庭教師の授業が普通とか言ってたのは。


 私は今日も元気にツバキ先生の前で木刀の素振りをしている。最初の授業から約3カ月、ずっと素振りだよ。

 ちなみにツバキ先生がたまに視線を外したり、背を向けたりしたら、私は即座に木刀を打ち込むようにしている。が、木刀の切っ先がツバキ先生に届いたことは一度もない。すべて防がれた。悔しいが、どうやらわざと隙をつくって、打ち込ませているらしい。なにがしたいのよ、この先生は――。


 木刀を素振りしながら、先生と会話をする。


「ツバキ先生」

「なんでしょうか、アーレお嬢様」

「私はこの授業で強くなっているんでしょうか」

「最初の授業からは強くなっていますよ」


 いや、それはそうでしょうよ!


「ちなみに、先生はどれくらい、お強いのですか?」

「お嬢様、それは強さの定義によりますね」

「では、1対1で先生に勝てる人は?」

「お嬢様は勝ちたい相手がいるのですか?」


 なんだか質問をはぐらかされたわね。


「えと、はい。将来的には」

「どれくらい強いのですか?」


 えっと、セージュ様って攻略キャラより強かったし、最強の剣の達人だったっけ?


「世界で一番ですわね」

「おお! 世界で一番ですか、それは志が高い」

 ツバキ先生の口元に笑みが浮かぶ。あ、やばいですわよ。

「では、お嬢様。練習方法を変えましょうか」

「あ、はい」


 ツバキ先生と私は木刀を持って対峙する。

「試合形式で行いましょう。どんな方法でも私に打ち込めたら合格です。なんでもりです。」


 いや、無理でしょ。


「ツバキ先生も打ち込んでくるんでしょうか?」

「寸止めで。手加減するので大丈夫ですよ」


 当り前でしょ!! あれ、でもツバキ先生が本気で打ち込んだらどうなるの?


「ちなみにツバキ先生が本気で木刀を打ち込んで当たったら、私どうなるんですの?」

「はっはっは。いまのお嬢様では死んでしまいますよ」


 はっはっは。冗談ですよね?


「では、お嬢様。始めますよ」


 結論からいうと、まったくダメでした。私の振るう木刀はすべて防がれ、なんどもツバキ先生の木刀が私の体にポンッと当てられるか、寸止めされた。手加減しているらしいが、全然、何されたかわからないんですけど……。

 なんでもありというから、砂を投げて目くらましをしたり、小石を投げてから襲い掛かったりしたけどダメ。


「明日以降はこの練習方式で行いましょう。では、拙者はこれにて」

 剣の道は険しい。だが、この道の先に、愛しのセージュ様が待っているのよ!目の前にぶら下がったニンジンを目指し走り続けるのよ!私!


―――――――――――――――


「では、本日も拙僧の手本を見て、魔法を放ってください」

 私は今日も元気にティー先生の前で「破―――!!!」と魔法を放っている。最初の授業から約3カ月、ずっと「破―――!!!」だよ。


「破―――!!!」

 と掛け声とともに魔法を放ちながら、ティー先生と会話をする。


「ティー先生」

「なんでしょうか、アーレお嬢様」

「私はこの授業で強くなっているんでしょうか」

「ええ。これはお嬢様の魔力量を増やす訓練です」

「魔力量が増えているんですの?」

「はい。日々、限界まで魔力を使うことで、魔力量を増やしております。基礎訓練ですな」


 なるほど、筋トレみたいなものか。


 たしかに、毎回の授業の終わりごろに、もうさすがに魔法を放てないと思ってからも、力を振り絞れば、どこにあったのか体の奥底から魔力がジワジワと溢れてくることがあったわね。


「先生、最初の授業で、私が先生の背中に放った魔法は、どうして当たらなかったんです?」

「ああ、あれはお嬢様の魔法をはね返したのですな」


 はね返す? そんなこともできるのかぁ。そういえばRPGゲームなんかで、魔法反射とか物理反射とか、相手の攻撃をはね返す魔法があったっけ。それがあるのかな。


「それは魔法ですか?」

「はい。拙僧が編み出した魔法ですな」


 また、オリジナル魔法かい。


「その魔法は、例えば魔法の他にも剣の攻撃とかもはね返せますの?」

「はい。できますな」

「その魔法、教えていただけません?」

「よろしいですよ。」

 ふっふっふ。この魔法を覚えて、剣の授業での試合で驚かしちゃる!


「お嬢様は鏡をご存知ですな」

「はい」

「鏡は陽の光をはね返しますな」

「そうですわね」

「その要領です」

「は?」

「魔法で作った鏡で光をはね返すのを想像してください。その要領です」

 それ以上の説明はないようだった。このパターンはもしや……。


「では、拙僧が魔法を放つので、お嬢様はそれをはね返してください」

「……はい」


「反射魔法」

 つぶやき、魔力で体の前で鏡をつくるように想像する。両手を前に突き出し、魔力の鏡をつくる。私の体を隠せるくらいの大きな楕円形の鏡だ。


 お、最初にしてはなかなか上手くできたわね。


「できましたわ。いつでも魔法をどうぞ」

「ではいきますよ。破ッ!」


 コッ  ピシッ

 目の前の魔力の鏡に、ティー先生の放った魔力が当たり、地面に当たる音がした。


 できた!これはいいんじゃないの?


「さすがですなぁ。では、どんどん威力を上げていきますぞ」

 え?


 そこからは地獄だった。魔力で大きな鏡をつくるのを維持するのに苦戦しつつ、ティー先生の放つ魔力がどんどん上がっていくのだ。最初はゆっくりだった野球のキャッチボールが、いつのまにかプロの剛速球になっていくかのような様子は地獄だった。


「次回以降はこの練習も行いましょう。では、拙僧はこれにて」

 恐ろしい授業だった。でも、この魔法を習得すれば、ツバキ先生とのなんでもありの剣の試合で面白いことになりそうだわ!ぐふふ。

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