第3話

 昨日は剣の授業で、今日は魔法の授業だ。


 日が暮れるまでぶっ通しで木刀を素振りした私の両手は、絶賛筋肉痛。だが、若さはパワー。想像よりも筋肉痛の痛みはひどくはなかった。あくまで想像よりは、というだけで実際はろくに両手を上げられないのだが。


 そんなこんなで魔法の家庭教師がやってきた。なんでも元はなかなか凄いひとらしい。さすが私の父、娘のお願いはなんでも聞いてくれる。だが、カレンは「お嬢様に魔法を教えるなんて、よほどの変人か暇人でしょうね」とつぶやいていた。偏見はよくないと思いまーす。


「拙僧が本日からアーレお嬢様の家庭教師になるティーです。よろしくお願いいたします」

 あれー?なんか和風なお坊さんがきたぞ。剣と魔法のファンタジー世界だから、もっとこうとんがり帽子をかぶった魔法使いみたいな人が来ると思ったんだけどなあ。


 ティーの見た目はザ・ジャパニーズお坊さんって感じだ。頭髪は剃っておりスキンヘッド。なんか大きい数珠のようなものを首から下げている。口元は真一文字に閉じられ、やたらとムキムキの筋肉質な体型で、妙に威圧感がある。


 私とティーは屋敷内の庭で授業を始めた。

「よ、よろしくお願いいたしますわ」

「では、まずはお手本をお見せいたしましょう」

 お、どこぞの家庭教師とは違って、お手本を見せてくれるなんていいじゃん!


「破―――!!!」

 ティーが手を向けた方向にあった庭の大きな石が砕け散った。


「では、お嬢様。どうぞ」

 どうぞ、じゃねーーー!! できるかい!!


「いまのは、なんの魔法なんですの?」

「はい。魔法の属性には火、水、風、土の他に光や闇といったものがあります」

「ふんふん」

「いまのはどの属性にも当てはまらない無属性のものです」

「はい?」

「拙僧が編み出した、どの属性にも通じる魔法です。既存の魔法では相性があり、属性によって有利になったり、不利になったりしますが、この魔法ならどの属性にも通じます」

「はぁ」

「では、どうぞ」


 ほんとう?


 でも、私が知ってる物語でも、アーレは火とかの魔法を使えてたし、どれかは使えるようになるでしょ。なるよね?

「えーと、どうすれば」

「お手本のようにやってください」


 魔法の杖とか、ないんかい!!


「え、では……。破―――!!!」

 私は必死の思いで筋肉痛の腕をプルプルと上げて、両手を庭に置いてある石に向けて叫んだ。……なにも起こらない。ティーのほうを見る。

「つづけてください」

「あ、ハイ……。破―――!!!」

「つづけて」

「破―――!!!」


 夕陽が沈みきる前。

「破“―――!!!」

 そこには掛け声だけならば。か〇は○波を放てるであろう私がいた。

「ふむ、おかしいですな」


 おかしいですな、じゃねーーー!! ハーハー叫んでただけじゃねーか!!

 え、ウソ。私って魔法の才能がないの!?

「ハァ、ハァ……。ティーは、どうやって、魔法を、使って、るんですの“?」

「魔力を放っておりますな」

「魔力、って、どう、放つん、ですの“?」

「え?」

「え“?」

「……いやー、はっはっは。失礼。そうでしたな」


 なにわろてんねん。


「お嬢様、ちょっと失礼」

 そういってティーは私の頭の上に手を置いた。

「フンッ」

 瞬間、体になにかが溢れてくるのがわかった。

「これは……」

「これが魔力ですな」

 私の体の中だけではない、周囲の草木や石、風のなかにさえ何かがあるのを感じる。

「これが……魔力」

「お嬢様、もう一度やってみてください」

 両手を、庭の石へもう一度向けてみる。

「破―――!!!」


 コンッ

 石に、なにかが当たった音がした。


「いや、さすがお嬢様ですな。お見事。」

 やったわ!ついに魔法が!


 ってなるかボケぇーー!? いままで叫んでた私がバカみたいじゃない!? 教えるの下手くそか!?


「では、拙僧はこれにて」

 ティーが帰ろうと後ろを向く。よし、こいつに魔法をあてちゃる!


「破“―――!!!」

 両手をかざして渾身の力で私はティーに向けて魔力を放つ。


 カッ!!


 ティーは振り向きもせず立ち止まった。そして、私の真横の地面に穴が開いていた。なにコイツ!?いま何やったの!?

「まぁ、魔法を学んでいくと、こういうことが出来るようになりますなぁ。お嬢様も精進すれば必ずや、では」

 ティーは心なしか楽しそうにそう言って帰っていった。


 いつからか遠くで見ていたカレンが近づいて来るのが見えた。あきれた顔をしている。

「お嬢様、魔法の家庭教師をお変えになられては?」

「…………いえ、このままで大丈夫です」

 ここで家庭教師を変えることは簡単だ。だが!先ほどの魔法の高みへ、私も至ることができれば! 私が魔法を発揮してセージュ様を守ってさしあげたい! その時! 驚きから、やさしい微笑みに変わるセージュ様のお顔♡ 想像しただけで、ぐへへ。

「ハァ、わかりました。明日は基礎学問の授業ですよ」


 翌日の基礎学問の授業は、特筆することのない驚くほど普通のものだった。屋敷内の蔵書のある部屋で座学を行った。家庭教師の授業って、普通で、どの世界もあんまり変わらないんだな~、はっはっは。おやすみなさい。

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