第3話
カタンカタン 電車の奏でるリズムが変わる。
間隔が開いて、重低音が混ざる。
刹那。
車窓からは鉄橋と広い川幅の川が流れる景色。
川面が朝日を反射しキラキラひかり、彼女を背中から照らす。艷やかな黒髪が透き通るように、輝き出す。
この時間が好き。良く出来たウルトラレアスチル。それも自分だけが知っている。
でも、いち、にい、……。
「次は、大同大橋⸺」
日本の電車の正確性は褒められたものだと思う。アナウンスのタイミングさえも正確だ。
毎日その駅員さん達の頑張りのおかげで電車に乗るだけで、遅刻もせずに学校に連れて行ってくれる。
でもさ⸺
目の前の彼女は、ぱっと顔を上げる。
後ろの大きな車窓を振り返り、真っ直ぐな黒髪をしなやかに揺らした。
何かに気付いた彼女は白いカバーの本をスクールバックに丁寧に仕舞う。
ジィー、チャックが閉まる音を聞きながら、今日も電車の正確性を恨みがましく思う。
カバンを胸元に抱えた彼女が立ち上がり、「すみません」とペコっと頭を下げる。左側のドアの前へ人をすり抜けながら向かう。
すれ違った瞬間、石鹸の、でもほのかに甘さを含む薫りが鼻先を擽り、同時に俺の胸もほのかに甘く満たす。
ゆっくりとスピードを落とした電車は下り坂特有の重力を僕達にかけながら、ホームへ滑り込む。
ぐっと両足に力を入れて、傾きに耐えながら視界に映すは、ピンと背筋を伸ばした凛とした彼女の横顔。
鼻筋がスっとして小さな唇が淡いピンク色。
顔を上げ、真っ直ぐ窓の外を見つめる眼差しは、少し気が強いのかな。
プシューと巨神兵の呼気みたいな音をさせながらドアが開き、彼女は軽やかな足取りでホームへ降りた。
黒髪を目印に目で追うけど、彼女はすぐに階段を上っていき、見えなくなった。
はぁ。今日も声をかけられない。何かきっかけがあれば……。
それとも、俺に自信が持てたらな。
高校生になり、『俺』に変えたけど。まだまだ慣れない。
せっかく地元から遠くの高校に進学したんだから、中学時代よりは甘酸っぱい青春とやらをしたい。
「よー、今日の古典の訳やった?」
ぼんやりしていたら、クラスメイトのあいつが乗って来た。彼女が降りる駅から乗るイケメンのこいつ『
気怠そうにカバンが肩からずり落ちそうだが、それもこいつの整った顔面のせいで、様になる。
自称面食いの韓国アイドルにどハマり中のばあちゃん曰く。そいつは「都会の男の子って背が高くてシュッとしてかっこいいイケメンさんなのねぇ」だ。
肝心の孫には「まーくんは、お顔立ちは女の子みたいだから、せめて身体は筋肉つけたほうが良いねぇ」
と、煮豆の小鉢を渡してきた。
これでも筋トレしてるよっ!! ばあちゃん!!
「無視すんなよー。ヒメもやってないの?」
頭1個分背が高いそいつは、さり気なく俺の肩に腕を回し寄りかかる。
何故か嬉しそうにぱぁ、と顔を輝かせた。
無駄に朝からキラついてんなよ……。
距離感が近いのか、いつもくっついてくるこいつ。
何だ?背が高いアピールか?
でも、こいつくらいイケメンだったら、あの子に自信を持って声をかけられるよな。
ぼ、俺はじとりと睨み、八つ当たりがてら無言の抗議をした。
古典の訳はやってある。
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