第4話
「なぁ。静って何でイケメンなんだ?」
「んー? ついにひめも俺に惚れた?」
やっと来た昼休み。俺こと『
不意に、ばあちゃん特製唐揚げを口に運びながら、イケメンの理由を聞いてみた。
真正面に座るイケメンは、食べているチョコチップメロンパンのカスを話しながらボロボロ落とす。
きたねえ。後でほうきで掃くか……。てかさっきも1つメロンパン食ってたよな……。
イケメンを生成するには、メロンパンが必要なのかよ。
「あ? ちげぇ。はよ答えろ」
つま先であいつの長い足を軽く小突く。邪魔なんだよ! ちょくちょく膝にあたってんだよ! 股下長い自慢か?
「わかったよ! あー、遺伝子と運じゃね?」
どやっとキメ顔で当たり前のことを言われた。これ、笑っていいやつか?
あー、でも、口元にメロンパンのカスついてんだよなー。
呆れはて無言で見つめていたら、静は首をこてりと傾げた。
その仕草がイッケメンだったから、余計腹が立つ。メロンパン付いているのは教えてやらん!
目一杯舌打ちをその残念イケメンに返し、最後に残したデザートのミニプリンを食べた。
パッケージの『鉄、カルシウム入り! 成長期のお子様に!』は、ばあちゃんの優しさだと受け取っておこう。
背もなあ。微妙なんだよな。俺。170cmは厚底スニーカー履くとあるんだけど。
でも、この目の前のメロンパンイケメンは180cmはあるし。さらに乗せてる顔も整っているしな。
あの子も声をかけられるなら、こっちがいいよな……。
あのキラキラした、宝石みたいな瞳にこんな自分を映せてもらえるのか?
それに……、もっと彼女に近付きたいのに、その方法もわからない。
そういえば、毎日あんなに瞳を輝かせて読むあの謎の本は何なんだろうか。
ノートサイズの本で、しかも厚みもかなりある。雑誌なのか?でも、大事そうにわざわざブックカバーかけている。
あのサイズのブックカバーってあまり見かけないよなー。
プリンを堪能しながら、朝の女の子の煌めく瞳と謎の白い本に意識を持って行かれていると。
ポケットの中のスマホがブルっと短く震えた。
ばあちゃんからメッセージが来ていた。
『こしやった。いたい』
そのメッセージの下には、ばあちゃんが『推し』ているアイドルメンバーが『すまぬ』と頭を下げているスタンプ。
これは……。
「ひめ、どしたー?」
「あー、ばあちゃんが腰やったってさ……」
「えぇ?! やべーじゃんっ! 腰は!」
「んー。今日は早く帰るわー」
「そーしなー」
ばあちゃん。大丈夫かな。
前に膝やった時は、入院して手術もして大変だったよな。あの時も、最初はこんな風に軽い感じで、ばあちゃんは言っていた。
嫌な予感がぐるぐる頭の中にめぐり、心臓がドキドキと逸りだす。
暗くなったスマホ画面に、眉間にシワを寄せ今にも泣きそうな自分の顔が映る。
すると、スマホ画面が光って震え、文字が浮かぶ。
『ばあちゃんまたぎっくり腰だって!』
『電話したら、薬飲んで寝てたら、楽になったみたいだけど。帰ったら、一応病院連れていくわ!』
『それまで、ばあちゃんよろしくー』
なんだ。ぎっくり腰なら、入院はないよな?
とりあえず、母さんも早く帰るって連絡あったし、母さんが帰って来るまでは俺がばあちゃんを看るか。
『了解』とすぐに返信する。すぐに母さんからサムズアップしたゆるキャラのスタンプが。
そのゆるキャラのゆるい表情に、張り詰めていた気持ちがゆるりと和んだ。
いつの間にか、喉を押さえられたように呼吸が苦しかったけど、楽になる。
ホッとして力んだ体から力が抜け、だらりと椅子の背もたれに体を預けた。
「ひーめ。こ、れ」
メロンパンを静にずいっと目の前に差し出され、意味がわからず。
というか、まだあったんだな。何個買ってんだよ。
戸惑いながら、メロンパンと静を交互に見比べる。
「北海道バター74%使用、高級メロンパン」と書いてあり、さっき食べていたのとは、種類が違うことしかわからない。
「ばあちゃんにお見舞い! お大事にって伝えといて!」
ムウ、と口を尖らせた静。頬が少し赤い。
照れてんのか? いつもひょうひょうとしているこいつが?!
ダル絡みしかしてこないと思った、友人の意外過ぎる気遣いに。
擽ったさを感じながらも、心が軽くなる。
「サンキュっ」
お見舞いの高級メロンパンを両手で受け取り、はは、と声に出して、笑った。
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