第32話 到着
車に揺られること数時間。
県をまたぐ、って分家の彼は言っとったけどさ。
2時間超えるのは聞いてないで。
途中から寝たから、結局何時間かかったんか知らん。
一つ確かなことは関西の端っこに来たってこと。
「長時間お疲れ様でした」
分家にしては大きい家の前で車を降りた私らに声をかけた彼の顔には、一切疲れは見えんかった。
「いや、こちらの方こそ長時間運転していただいて――」
途中父さんが運転を交代するって言ったらしいけど、
「大丈夫です。お二人は寝ていてください」
ってさ。
優しすぎんか。
あのクソご当主様のDNAが混じっとるのが信じられん。
お母さんがしっかりしっかり育ててくれたんやろうなぁ。
「ふわぁ……」
欠伸をしたんは美女幽霊さん。
裏で仕切って私を導いてくれた功労者。
「美女幽霊さんもありがとうございました」
「いえいえ。なんだか永遠の別れみたいな雰囲気出していらっしゃいますが、私たちはまだまだ凛子さんと美佳さんの傍にいますよ」
「助かるぅ。これからもバイトを続けていくつもりやから」
「そうね。いろいろと教えてちょうだい」
おっ、美佳も乗り気や。
こりゃあ今まで以上に、バイトに力が入りそうや。
「本家に目をつけられない程度にやれよ。あと、ちゃんと大学には行け」
「わかっとる」
心配するな、父さんよ。
ちゃんとやることはやるから。
「にしても、貴女の家は意外と大きいのね」
ちょいちょい本物の美佳が顔を出しとるんは気のせいちゃうよな。
家の大きさを神様が気にするとは思えんし。
「はい、美佳様。私を身籠ったとき、本家から手切れ金としてかなりの額をいただいたそうです」
手切れ金というか、口止め料やろそれ。
「そのときに家を増築したようです」
「へー」
増築できるほどの額を渡したってことやんな。
本家すげえ。
でも、羨ましくないからな。
あんな家。
「ここやったら幽霊さんらが窮屈な思いをせずに暮らせそうやなぁ……当分お世話になります。すぐに新しい家見つけますんで」
これ以上お世話になったら申し訳ない。
そう思って言ったんやけど、
「それなら『取り敢えず』ではなく、ずっとここに住んでいただけませんか?」
「はい?」
何故。
「私たちがいてもお邪魔なだけだと思います」
そうやんな、母さん。
父さんも私も同意見で、頷く。
「いえ、そんなことはありません。正直言って、部屋は余りまくっているのです。それに、申し訳ないと言っていただけるのであれば、本家に復讐するのを手伝っていただけませんか?」
「ほう」
語彙力ないのが辛いっすね。
「ねぇ、凛子」
「なんや」
私の肩を美佳が叩いた。
「彼は、貴女たちは本家を潰したいの?」
「あぁ……えっとな、うん。そうやな」
私の返事に、彼女は口角を上げて、
「それって凄く楽しそうね」
わぁお。
滅茶苦茶悪い顔してる。
美女幽霊さんも、他の幽霊さんも。
みんなが乗り気なんやったら、そうやな。
「じゃあお言葉に甘えて、お世話になります」
こうして、私らは新しい土地で暮らしていくことになった。
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