終幕

心機一転

 美佳が美佳じゃなくなって数か月。


 生活は……、


「楽しすぎるっ」


「急にどうしたのよ」


 怪訝な顔で私を見つめてくる美佳(神様)。


「いやだってさぁ」


 バイト終わり、近所で見つけた公園で缶ビールを飲みながら喋る。


「楽しいもんは楽しいやん」


「語彙力を鍛えた方がよさそうね」


 真顔で見ないでください。


 ちょっとへこむ。


「まぁ、その気持ちわからなくもないわ」


「せやろ!」


 本家に居場所がバレんように、バイトは他県に赴く。


 勿論交通費は請求するで。


 水増し請求な。


 住んどる土地の依頼はたまーにしか受けん。


 デンジャラスやからな。


 で、日本全国を飛び回りつつ、定期的に分家に戻る生活を送っとる。


 私らのスタンスは変わらんよ。


 お祓いではなく話し合い。


 交渉が決裂した場合?


 そんときゃー神様のパワーであの世へ。


「今までよりも行動範囲が広がっとるし、お金もようけ貰えるし」


「そんなにお金を貯めてどうするのよ」


 不思議そうに首を傾けた。


 うん、今日も可愛いな。


「どうもこうも、いつなんどきなにがあるかわからへんやろ。本家に居場所がバレたとき、即逃げ出せるように貯金しとかな」


「そうね。いつバレるかわからないものね」


「せやろ」


 神様はすっかり美佳のカラダに馴染んだようで……というか、美佳。


 乗っ取られたにもかかわらず魂は生きとるらしい。


 理由を聞いたら説明してくれたよ。


 でもな、長ったらしい説明やったし忘れてもうた。


 私には難しすぎんねん。


 そんで、傍から見たら独り言をぶつぶつ言っとる。


 美佳と対話しとるらしい。


 いや、心の中でできるやろ。


 と、思ったわ。


「ホンマ、充実した毎日やわ」


「えぇ」


 都合よすぎ?


 ええねん、それで。


 なんべんでも言うわ。


 神様は気まぐれやし、こっちのルールは通用せーへんってな。


「んじゃあ寒なってきたし帰ろか」


 ベンチから立ち上がった私に、


「凛子」


「なんや」


「……ありがとう」


「へ?」


 裏返った声が出たときには、もう美佳は立ち上がって歩き出しとった。


「ちょっ、もっかい言ってや!」


「嫌よ」


 お礼なんて言われたん初めてや。


 上手くやっていけるか不安やったけど、どうやらこれからも仲良うやっていけそうや。


 そうやろ? 美佳。


終わり

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