第29話 決断

「……」


 神様、ぽかーんと口開けとる。


 衝撃的な提案やったみたいやね。


 その表情写真に撮りたいわ。


「正気?」


 なんとか紡ぎだした感丸出しの言葉がそれかい。


 妥当っちゃぁ妥当な反応か。


「正気や正気。この美女幽霊さんも、後ろにようけおる幽霊さんもみーんな話し合いして、うちに来てもろうた人たちやねん。その後出て行った幽霊さんもおるけどな」


「……」


 絶句っちゅー言葉がぴったりな表情。


 口閉じな虫が入るで。


「楽しいですよ。凛子さんは私たちの好きなお酒を常にストックしてくれますし。霊に憑りつかれた人間を助ける仕事をしていて、たまーに助っ人として連れて行ってくれます。退屈しないと保証します」


 ナイスフォロー美女幽霊さん。


 ホンマに貴女がいてくれてよかったわ。


 ただ、


「仕事じゃなくてバイトな。あと、話し合いが決裂した悪霊さんは美佳がお祓いしとった。せやから、美佳におってもらわな困るねん。今は霊が視えるようになったけど、お祓いする力は持ってないから」


 訂正と付け足し。


 私はこれまで美佳について行ってただけやもん。


「……そう」


 神様は呟いて朽ちた神社を、山を見渡した。


 横顔が寂しそうに視える。


「山が大事なんはわかる」


 迷ってるんやろうな。


「でも、このままここにおったら確実にお祓いされてまうで。それでええの?」


 言いたいことは言った。


 後は神様の判断待ち。


「……」


 迷ってんなぁ。


 当然か。


 どれくらいここにおったんか知らんけど、この山が神様の居場所やもん。


 悩まん方がおかしい。


「一緒に行こうや」


 ゆっくりと近づいき、手を差し出す。


 さてさて。


 手を取ってくれるとええんやけど。


 神様は視線を私に戻して、


「本当に貴女って人は……変わってるわね。私を連れ帰ったら面倒よ。本家? と揉めるんじゃないの」


「そんときはそんときや」


 後先考えずに行動するのはよくない。


 せやけど、自分の信念を貫いて行動しとるから後悔はない。


 母さんも父さんも、クソご当主様の息子だという彼も、私に協力してくれとる。


 幽霊さんもな。


 質より量、って美女幽霊さんが言うてたやろ。


「これから先のことは、みんなで力を合わせて解決すればええねん」


「ふふっ」


 ちょっと沈んでた表情の神様が笑った。


「ん?」


「貴女と……いえ、貴女方と一緒に生活するのも悪くないかもね」


「おっ、ということは」


 笑顔を引っ込め、


「私を退屈させないと約束して」


 急に上から目線でくるやん。


 まぁええか。


 神様らしゅうて。


「おん」


 差し出した手に、神様……いや美佳は手を重ねてくれた。


「ほな行こか」


「えぇ」


 美佳は最後に境内を見渡し、


「さようなら」


 静かにそう言った。

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