第27話 エンパシー

 ほな、かなり無駄話してもうたけど本題入ろか。


「あんな、さっきも言うたけど、このままやったら美佳はお祓いされてまうで」


「そんなに強いの? えっと……本家の人間どもは」


「おん」


 断言できる。


 ヤツらは敵に回したらヤバイ。


 現在敵に回している最中やけど。


「当主が一番力が強い。そいつがしゃしゃり出てきとる。正直言って大ピンチや」


「あらまぁ」


「おーい、呑気やなっ」


 相変わらず。


 他人事ちゃうねんで。


 自分のことなんやで。


 しっかりしてくれ、頼むわ。


「うーん。今の私じゃあすぐにお祓いされてしまうわね」


「え、マジ?」


 神様やろ。


 そんな簡単にいかんのちゃうの。


「ついさっきまで眠っていたし、力の使い方なんて忘れてしまったわ」


「どんだけ寝とったねん」


 アカン、話が進まんとわかりつつもツッコんでまう。


「さぁね。私から言えることは、存在を忘れられた神様なんてそんなもん。ってことよ」


「ほーん」


 成程。


 この神社の荒れ具合を見る限り、かなり昔に崩壊したんやろうな。


 本殿も鳥居も立派やったんやと思う。


 それだけ崇められとった、信仰されとった神様。


 いつから独りぼっちなんやろ。


「……寂しかったやろなぁ」


「え」


 ボソッと呟いた言葉に神様が反応した。


「どうしてそう思うの」


 ちょっぴり目を見開いとる。


 ん? なんか驚かせること言うたっけか。


「そりゃぁ……この神社の雰囲気からして、放置されてから大分だいぶ日が経ってるやろ。こんな山奥やし、参拝してくれる人は滅多におらん。ずーっと独りぼっちなんて寂しすぎる」


 想像しただけで寂しくなってきた。


 同時に他の感情もこみ上げてくる。


「……」


 無言で私をじっと見つめる神様。


 表情からはなにを思っとるんか読み取れん。


「悲しかったやろうし、恨んだやろ。怒ったかもしれんね。ようここまで耐えたわ。私やったら無理」


 共感。


 いや、もっと深い感情。


 なんて言ったらええんやろ。


 シンパシー……は共感やな。


 あっ、エンパシーか。


 神様の立場になって考えてんねやもん。


「ごめんな、独りぼっちにしてもうて」


 自分に責任がないのはわかっとる。


 でも、謝りたかった。


 人間の事情で崇められて、用済みになったら捨てられて。


 神様も幽霊さんも人間も関係ない。


 寂しいもんは寂しいんや。


「……貴女みたいな人間、初めて出会ったわ」


 微笑みながら言った神様の表情は、どこか泣きそうに視えた。


「私だけとちゃうで。アンタが乗っ取った美佳も私とおんなじや。感じとるんとちゃうん?」


 私の言葉に、


「そうね、この子も無理に私を追い出そうとしていない。むしろ、ずっと慰めてくれているわ」


 美佳の姿をした神様は頷いた。

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