第18話 到着

 山には想定の1時間以上巻いて到着した。


 クソご当主様の血を受け継いでるとは思えない優しい彼が、ハチャメチャなスピードで運転してくれたおかげ。


 入口には彼が言った通りしめ縄と見張りの人が立っている。


 こっち側の人だから、普通に真ん前に車を停めた。


 なんかさ、運転のとこだけ父親の気性の激しさが遺伝しちゃってる気がする。


 言わんけど。


「おぇ」


 正しくは、言いたくても言えない。


 ガッツリ車酔いした。


「ありがとうございました」


「助かった。本当にありがとう」


 二人ともお元気で羨ましい。


 三半規管どないなっとんねん。


「いえ、僕にできるのはこれだけなので……申し訳ないです」


「そんな。頭を下げないでください」


「ごめん、ちょっと吐いてくるわ」


 断りを入れて端の方でキラキラ。


 しゃーないやん。


 普通の人は酔うんやって。


 母さんらが異常なんやって。


「体調不良のところ申し訳ありませんが」


 吐きスッキリしたところで、彼が眉をハの字にして話しかけてきた。


 体調不良の原因アンタよ。


「彼らによると、まだ美佳様は発見されていないようです」


 彼ら?


 あぁ、見張り役の人のことか。


 本家に協力するフリをして、森の入口の見張り役を買って出てくれたらしい。


 あざっす。


「ですから、行くなら今です。今しかありません」


「そうっすね」


 吐き気は治まった。


「行けますか」


「行けます」


 本家のヤツらより早う見つけてやる。


「では、行ってらっしゃい」


「ん? 私一人で行く感じなん」


 二手に分かれて捜索するもんやと思っとった。


「私や貴女のご家族が山で本家の人間に遭遇すると不味いので」


「確かに」


 一人は不安でしかないけど、複数で行くよりは隠れやすいよな。


「にしても、なんで見つかってないんやろ。神社のことは話したはずやのに」


 不思議やわ。


 私にとっては好都合やけどさぁ……クソご当主様らは霊能力者やで?


「近寄れないようにしてあるんやろ」


 アンサーは父さんから。


「ん?」


 すまん、頭が上手く働いとらん。


 どういうこっちゃ。


「美佳は多分神様的な上位の存在に憑りつかれとるんでしょ? 結界を張るなり、道を迷わせるなりできるんとちゃう?」


「力が本家の人間より上ってこと?」


「おそらく」


 母さんと彼のおかげで理解できた。


 サンキュー。


「その場合、私たどり着けるんかな」


 お礼と同時に不安が頭をもたげる。


 超ハイレベルな本家の人間を迷わせとるんやったら、幽霊が視えん低レベルの私は尚更無理なのでは?


「凛子様の強い想いがあればたどり着けるはずです」


 なんの根拠もない彼の言葉。


 やけど、母さんも父さんも力強く頷いてくれた。


 そうやんな。


 美佳を助けるんは私や。


 弱気になってどないすんねん。


「んじゃあ、もう行くわ。アイツらがいつたどり着いてまうかわからんしな」


「行ってこい」


「待っとるからね」


「ご健闘をお祈りします」


 三人の言葉を背に受けながらしめ縄をくぐり、私は山道を歩き始めた。


 そういえば、彼の名前聞き忘れたな。


 無事に帰れたら聞こう。


 どうか、美佳を連れて帰れますように。

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