第16話 爆弾発言

「すみません、軽自動車で」


 頭を下げられた。


 黒い軽自動車の前で。


 いやいやいやいや、車種はええねん。


「あの」


「はい」


「なんで屋敷の前に停まっとるんですか。本家の人らにバレバレの位置やん」


 問題は車の位置よ。


 屋敷の真ん前の道路に路駐されとる。


 後ろには同じ黒の軽自動車。


 運転席と助手席に男性が乗っとる。


 視線を向けると一礼されたから、なんとなく私も頭を下げた。


「大丈夫です。ご当主様方が山に向かったのと、残りの人間が裏庭に行ったのを確認してから車をここに停めてもらいました」


 と、後ろの車に乗っていた二人を指さした。


「誰なんですか」


「それも含め、移動しながら説明します。車に乗ってください」


「あの、どこへ」


 まだ100%信頼しとるわけちゃう。


 ご当主様の意思に逆らっとる時点で味方認定してもええんやけどな。


 確認は大事。


「山に決まってるじゃないですか」


 真剣な眼差し。


「美佳様を救いたいんですよね? すぐ行かないと手遅れになります。初対面の私を信頼できないのはわかります。車内で経緯を話しますので、信じられなくなったら途中で降りていただいて構いません」


 謎に頭を下げられた。


 本家側の人間で私らに敬意を払ってくれる人に初めて会ったわ。


「わかりました」


 頷きながら言ったのは父さんだった。


「美佳は私たちの子ども同然です。お世話になります」


「よろしくお願いします」


 母さんも父さんも頭を下げる。


「美佳を助けられるんですね?」


 最後の質問や。


「確証はありません。山に行ってみないことには……」


 絶対に救えると言わんかったことが、信頼できるポイントになった。


 この世に『絶対』なんてものはないからな。


「よろしくお願いします」


 私が頭を下げ、彼はほっとしたように、


「それでは車に乗ってください。急ぎましょう」


 運転席に乗り込んだ。


 あっ、運転してくれるんや。


 父さんが助手席、私と母さんが後部座席に乗り込んだところで、


「それでは出発します」


 THE 丁寧。


 素晴らしい人柄っすね。


「あっ、後ろの人たちもついてくるんですね」


 振り返ったらついてきとる。


「はい、人手は多い方がいいので」


「成程」


 そりゃそうか。


 てか、


「あの人たちは誰なん?」


 おっと、タメで聞いてしまった。


 失礼。


「私の分家の者です」


「成程」


 語彙力なくてすんません!


 他に言い方ないやん。


「そうそう、最初にお伝えしておきます。私がみなさんに力を貸そうと思ったのは」


 単刀直入やな。


 まぁ、車内で説明する言うてたし。


 聞かせてもらおう。


「実は私、ご当主様が今の奥様と結婚される前に付き合っていた女性の息子なんです」


「はい!?」


 車内に私の声が響いた。


「え、マジですか」


「マジです」


 ルームミラーに映っていた彼は微笑んでいた。


「Oh……」


 衝撃的な発言すぎて、母さんは口を開けっ放し。


 父さんは彼を見て母さんと同じ顔。


 うん、正直に言うわ。


 私も同じ顔しとるねん。

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