第12話 彼女への想い

「凛子、部屋の荷物は頼んだ」


「うん」


 母さんと父さんは、美佳用の食器、洗面用具などを回収。


 私は、


「なんで燃やさなアカンのや」


 半泣きで彼女の荷物をまとめていた。


 ご当主様がなにを考えているのかさっぱりわからんけど、急がなアカン。


 クソ当主のためとちゃう。


 美佳のためや。


 私と違ってあの人らは霊を祓うのが本業やもん。


 きっと、美佳を救ってくれる。


 お願いします。


 祈りながら必死に物をボストンバッグに詰めていく。


「服はこれでええな。問題は……」


 本棚に隙間なく並べられた本と、収まりきらずにそこら中に積み上げられた本の山々。


「これ全部よなぁ。燃やすの勿体ない」


 物欲が全然ないあの子が唯一欲しがったのは本やった。


 全ては幽霊さんたちを理解し、救うため。


 勉強とバイト以外の時間はずっと読んどった。


 幽霊、オカルト、日本の風習など。


 私も読まされた。


 最初は嫌々。


 興味なかったもん。


 せやけど、美佳が私の好みに合うような本をチョイスしてくれるようになって。


 どんどん読むのがおもろなっていったんや。


 懐かしい。


 隣りに座って、ただ本を読む。


 あの子の読むスピードが異常やったからペースは違うかったけど。


 無言でも心地いい空間なんよ。


 大切な時間なんよ。


 美佳がどう思っとったんかは知らん。


 私はその時間を、これからも守りたい。


「本は私も読んどったし……私の持ち物ってことでええよな」


 独り言のようで独り言やない。


 沢山の幽霊さんたちが聞いてくれとる。


「なぁ、幽霊さん。美佳はちゃんと私んとこに戻ってくてくれるよな」


 優しいみんなのことやから、多分慰めてくれて励ましてくれとるはず。


「いつまでもおったらアカンな。よいしょっと……ほなな」


 返事が聞こえへん幽霊さんらに挨拶。


 新規さんもおるけど、大半が長いこと一緒に過ごしてきたみんなや。


 視えてなくても大事な存在。


「みんな」


 ドアを閉める寸前、振り返る。


 開いていない窓のカーテンが揺らいだ。


「ありがとう」


 幽霊さんなりの励ましなんかな。


 頑張ってくる。


「行ってきます」

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