第3幕 本家のやり方

第10話 不甲斐ない

 家に辿りついたんは深夜。


 いつも通りニッコニコで出迎えてくれた母さんは、


「どないしたんや」


 沈んだ表情の私を見てサッと顔色を変えた。


「美佳は」


「……消えた」


 玄関で立ち話する話やない。


「急がなアカン」


 いつになく真剣な表情。


 切羽詰まった様子。


「リビング行っとき。父さん起こしてくる」


「うん」


 どうやって帰って来たんかわからん。


 運転に注意ははらったで。


 事故ったらどんどん手遅れになるだけや。


 リビングのテーブルで頭を抱えとったら、


凛子りんこ、なにがあったんや」


 私の向かい側に座った父さんが口を開いた。


 母さんは私の隣り。


「今日のバイトは――」


 事の顛末てんまつを話した。


「私に幽霊さんが視えとったら。私にもっと力があったら」


「落ち着きな」


 背中をさすってくれる母さんの手が温かくて、涙がこみ上げてきた。


「守ってあげられへんかった。なんもできんかった」


 悔しい。


 辛い。


 苦しい。


 負の感情がカラダ中を駆け巡る。


 後悔してもしきれへん。


「もうどないしたらええん」


「凛子……」


 なんの慰めにもならへんけど、ありがとう母さん。


 気づかってくれて。


「今回の件は私らの手に余る」


 腕を組み、目を閉じて静かに話を聞いてた父さんが、


「本家の人間に話さなアカン」


「そんなっ。美佳を捨てた人間やで! どうせ今回も捨てるに決まっとるっ」


「それでもや」


 普段は温厚で私らを自由にさせてくれとる父さんは、厳しい目つきをしとった。


「私らは所詮分家の人間。美佳を預かっとるにすぎん。友人関係でもめ事があったのならなにも報告せん。やけどな、今回は美佳が巻き込まれとる」


「そりゃそうやけど」


 納得せなアカンのはわかっとる。


 本家の娘が憑りつかれて失踪したんや。


 報告せんかったら。


 このまま美佳が元に戻らんかったら。


 多分、私らは殺される。


 冗談抜きで。


「行くぞ」


 私に拒否権はない。


「行こか」


 母さんに支えながら立ち、私らは隣りの本家へと向かった。

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