第9話 悲劇か惨劇か

 どないすればええんや。


 最悪の展開。


 こんなん初めてやから対処の仕方がわからん。


 今になって思う。


 奇跡やったんやって。


 対話で解決できて、アカンかったらお祓いして。


 幽霊さんらと仲良うして。


 私は霊が視えへんし、会話できへん。


 どうする。


「ちょっ、どこ行くねん!」


 お地蔵様を放置して再び山道を歩き始めた彼女を、慌てて追いかける。


「はっや」


 普段はインドア派。


 体力なんて平均以下なはずなんに。


 めっちゃ歩くの早いやんけ、おい。


 先回りして通せんぼしたいところやけど、ついて行くのが精一杯や。


「待ってや!」


 憑りついとるん正体はわからん。


 神様か?


 幽霊さんか?


 誰を相手に説得すればわからん。


 けど、


「美佳の代わりに私に憑りついてくれ!」


 一方的に話しかけることはできる。


 聞いてくれるか知らんけど!


 四の五の言うてられへんやろっ。


 あ、この場合言葉の使い方間違っとるんか?


 んなこと考えとる暇あるかいっ。


「くふふ」


「おっつ」


 急に立ち止まるもんやから、早歩き通り越して軽く走っとった私は急ブレーキ。


「諦めが悪いのねえ」


「そりゃそうやろ!」


 気づけば目の前には原型を留めていない、神社だったらしきもの。


 鳥居も階段を登った先にある本殿も崩壊しとる。


 至る所にお札が貼ってあるけど……全部剝がれかけとるやんけ。


 多分やけどな、よくないものの集まる場所になっとるんちゃうか。


 経験上の勘や。


 でもって、ここが美佳に憑りついとるモノの棲み処すみかか。


「そんなにこの子が大事なの?」


「大事に決まっとるやろ」


 睨んでまう。


 下手に出た方がええんやろか。


 クッソ。


 傍におったのに。


 私は美佳のなにを見とったんや。


 どう会話を進めたらええんか全くわからへん。


「それなら」


 ひび割れたコンクリートの階段に座り、両手を頬に当てながら言うた。


「それなら、なんや」


 もったいぶった言い方腹立つわ。


「くふふっ」


 妖艶って言ったらええんやろか。


 微笑む美佳は綺麗やった。


 アカン。


 褒めてどないすんねん、アホ。


「尚更ほしくなっちゃった。くふふ」


 そう言ってヤツは立ち上がった。


「おい、どこ行――」


 都合よく風がざぁぁぁぁっと吹き、大量の葉っぱが舞う。


「クッソ!」


「言ったでしょ?」


 耳元で声が聞こえるのに姿は見えない。


 風の影響を受けていないような声。


「私たちは理不尽だって」


 ヤツの言葉が終わると共に、風はやんだ。


「美佳!」


 いない。


 どこを捜しまわってもいない。


 結局、数時間かけて森を捜しまわったけど見つからんかった。


「なんでや……なんでこんなことになったんや」


 悔しくってたまらん。


 私の説得は失敗に終わり、美佳は連れ去られた。


 私にできることはもうない。

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