第8話 通用しない

「ここや」


 歩き続けること数十分。


 やっとたどり着いた。


 お地蔵様発見。


 なんちゅうか。


「隠されとるみたいやね」


 一体だけのお地蔵様の周りは草が生えまくっとる。


「みたい、やなくて隠されとるんやと思う」


「ほーん」


 お地蔵様にイタズラする人間ちょいちょいおるからなあ。


 依頼主さんは憑りつかれて……待った。


「なぁ」


「なに」


「悪霊さんに乗っ取られて、お地蔵さん蹴り飛ばしたんよな? 山の神様が怒るべきはさ、乗っ取った悪霊さんと違うん?」


 よくよく考えればそうやろ。


 依頼主さんが自分の意思で蹴り飛ばしたんやったらわかるわ。


 でも、今回はちゃう。


「ハラスメント上司の誘いを断れず、この山に来たんはアカンかったかもしれん。せやけど、断れへん関係性なんやからしゃーないやん」


「うん」


 ちょっとお地蔵様から距離を取り、私は話し続ける。


「むしろ、神様は不憫な彼を憐れむべきなんとちゃうん」


 せやろ?


 神様はなんでもお見通しなんやから。


 乗っ取るなら上司。


 呪うなら上司やろ。


「理不尽すぎる」


 自分で話しとって怒りわいてきたわ。


 アカンアカン。


 冷静にならな。


 ここで美佳に怒りをぶつけてもしゃーない。


「なぁ、凛」


「なんや」


 半ギレで返事するぐらいは許してぇや。


「今までも経験してきたやろ」


 真顔でじーっと目を見つめられる。


 ん?


 なんか美佳の雰囲気が変わった気がするんは気のせいやろうか。


 言葉ではよう説明せん。


 いつもの美佳となんかちゃうねん。


 柔らかい雰囲気がない。


 いや、いつも割と不愛想なんやけど。


 私と二人っきりのときは笑顔ちょいちょい見せるんやで。


 可愛いで。


 えくぼができてなぁ……


 それだけ真剣な話をしようとしとるってことなんか?


「わかってるやろ。今までも経験してきたやろ、理不尽やねん。見ただけで呪われる。足を踏み入れただけで呪われる。憑かれやすい人もおれば、憑かれへん人もおる。視える人もおれば、視えへん人もおる。幽霊や神様にこっちの事情は関係あらへん。通用せーへんねん」


「……」


 一気にまくしたてられた。


 こんなん初めてや。


 こんなに喋られるんも、威圧感を感じるんも。


 って、あれ?


「なぁ、美佳」


「……」


「なんで幽霊に「さん」づけせえへんかったん?」


「……」


 無言。


 視線はもう私ではなく、お地蔵様に向けられとった。


 もしや。


「美――」


「私たちはね」


 私の言葉を遮り、彼女は振り返った。


 口角が上がっとる。


 誰や、コイツ。


 美佳やないっ。


「アンタ――」


「理不尽なの」


 あぁ、いつの間に。


 なんでや。


 なんで、美佳に憑りついたんや。

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