第6話 厄介すぎる案件

 依頼主が帰り、


「すみません、オレンジジュースおかわり」


「コーヒーをお願いします」


 私がオレンジジュースな。


 コーヒー苦手やねん。


 苦いやん。


 ビール飲めるのにって?


 それとこれとは話が別じゃいっ。


「今回のんかなり厄介やで。なんで受けたん」


 断ってもよかった。


 いくら可哀想でもな、なんでもかんでも引き受けとったらアカンねん。


 動物の幽霊が憑いとるんやったら話通じひんもん。


 死ぬ一歩手前ってことは相当ヤバイ。


 明日家に行って幽霊さんと話し合うことになったけど。


 それまでに死んどる可能性もある。


「あんな状態の人を見捨てられへん。自分の意思で行ったんならまだしも、無理やりやん。そんであの人だけ憑りつかれて……可哀想やろ」


 優しすぎる。


 そこが美佳のええとこでもあり、心配なところでもあり、大好きなところでもある。


 え、どんだけ好きかって?


 地球規模や。


 本気で言うとるからな。


「確かに可哀想やけどな」


 そういや昔、バイトを手伝い始めたころに聞いたことがあったなあ。


 一々幽霊さんと話をして、自分に憑かせるのが理解できんくて、


「神社なり寺で供養してもらわへんの?」


「無理やりあの世へ送り出すんはなあ。可哀想やろ」


 可哀想って。


 悪霊とか地縛霊やで?


「どこに可哀想要素があるんな」


 ちょっとキレながら聞いたら、


「強い恨みがあって幽霊になった人がおるやん。その人自身が悪いことをした場合もあるけどさ、ハメられたとかイジメにあったとか……不憫な人もおるんよ。そんな人らを無理やりお祓いはできん。したくない」


 力強う言われた。


 んなん言われたら反論できんし、好きなようにしたらええって思った。


 私はあくまで美佳を支える立場やからな。


 あと、彼女に憑りついとるんが人間だけじゃのうて、動物もって聞いたときは不謹慎にも笑ってしもうた。


「お地蔵様みたいやな」


 って。


 軽く怒られたけど、そーやん。


 お地蔵様やん。


「で、山はなるべく明るいうちに行った方がええと思うから、今からでええ?」


「え? あ、うん」


 すまん、全然話聞いとらんかった。


 幽霊さん方との話し合いが明日になったんは、今日山に行くため。


 蹴とばしたお地蔵様を元に戻さなアカン。


 滅茶苦茶にされた状態のままで許してもらえるわけがないし。


「ほな車とってくるわ……待っとく?」


「ううん、私も行くわ。もっかい戻ってくるんは手間やろ」


「せやな」


 運転は私の役目。


 そもそも美佳は免許持っとらへんから、私が運転するしかないんやけどな。


 全く面倒やないで。


 美佳のためやもん。

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