第5話 真面目さんからの依頼 2

「山は車が通れる道がなくって、歩いて登りました。僕は車から出た瞬間になんて言うたらええんやろ……嫌な雰囲気を感じたんですが、上司はなにも感じなかったようで、さっさと歩いていきました」


 あちゃーこの先の展開が容易に想像できてまう。


 多分やけど上司は今も呑気に生活しとるやろ、それ。


 被害を受けたんはこの骸骨似依頼主さんだけ。


 何回でも言うわ。


 可哀想すぎるやろ。


「ここからなんですが……すみません、山でのできごとは覚えていないんです」


「おん?」


 入った途端に憑りつかれちゃったタイプか?


「上司さんからなにか話を聞いていませんか」


 美佳が口を開いた。


 いつも以上に暗い顔。


 マジでヤバイ案件やん。


「はい、聞きました。道端にあったお地蔵様を蹴り飛ばしたそうです。そこで漸く僕の様子がおかしいことに上司が気づいて、引きずるようにして山をおりたみたいです。車に戻って、ぶん殴られて僕は正気を取り戻しました」


「わちゃー」


 私も美佳も頭を抱える。


 やっちまったな!


 お地蔵様が置いてあるにはそれなりの理由がある。


 語りだすと長くなるから割愛。


 めんどいし。


「因みになんやけど、そのお地蔵様、手入れされている感じやったんか」


「いえ。上司によると、放置されて何年も経っていた感じだったそうです」


 あーあ。


 ガチでヤバイやつじゃん。


 あんな、手入れされてないのには、手入れされていない理由があんだよ。


 そんでもってお地蔵様の周りにいるのは人間だけやない。


 動物もや。


「美佳、この人に憑りついとるんって人間だけか?」


「ちゃう」


 ほらな。


 こりゃ金額もっと上乗せせなアカン。


 引き受けるなら、の話やけど。


 ちょっとここまで厄介やとなあ。


 それを決めるのは私とちゃうで。


 美佳や。


 決定権は彼女にある。


「毎日悪夢にうなされとるんです。自殺する夢を見るんです」


 しんどいやろなあ。


 安眠できんで当然や。


「その上司は? 様子おかしなっとらへんのですか」


「いつも通り元気にハラスメントしてきます」


「だっる」


 想像通りやのぉ!


 そいつからお金ぶん取りたいわ。


 なに呑気にハラスメントかましてくれてんねん。


 しばくぞ。


「どうする、美佳」


 余計な情報入っとったけど、話はわかった。


 自分の脳内整理できてへんというか、既に乗っ取られ始め取るんとちゃうか。


 自殺しかけてたし、美佳が一歩手前言うてたし。


 部署は営業。


 成績はトップクラス。


 真面目な会社員。


 上司のせいで呪われた。


 以上。


 さてさて、面倒な案件やけど美佳やったら、


「お引き受けいたします」


 せやろなあ。


「ありがとうございますっ」


 泣いとる。


 うん、泣きたくなるわな。


 藁にも縋る思いで私らを頼って来たんやもんな。


 任せとき。


「あの、お金は」


「あー、取り敢えず20万。ヤバすぎる案件やから、終わったら更に上乗せするかもしれん。それでもええですか」


「はい」


 頭を下げた依頼主さんの涙が、テーブルにぽとっと落ちた。

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