第2幕 失踪

第5話 真面目さんからの依頼 1/2

 さてさて本日の依頼主さんは、


「普通の会社員です」


「嘘つくなや」


「凛」


「すんません……休職中です」


 ちぇっ、美佳にたしなめられちった。


「いや、アンタは謝らんでええよ」


 流石になぁ。


 骸骨みたいにガリガリに痩せた容姿。


 この1週間で10kgも落ちたんやと。


 ヤバすぎるやろ。


 目の下のクマはハッキリクッキリ。


 髪の毛には白髪が混じっとる。


「これ、先々週の飲み会の僕です」


「げっ……あ、すんません」


「いえ」


 苦笑されてもうた。


 私の反応は予想済みやったんやろうなあ。


 申し訳ないと思うと同時に、しゃーないやんとも思う。


 やってさ、全然違うんやもん。


 元々細身やけど、まぁ「ちょっと痩せすぎかな」ぐらいや。


 あ、言わんけどな、言わんけど適切な言葉を思いついた。


 元気なもやし。


 口に出したら怒られるから言わんで。


 誰に?


 美佳に決まっとるやろがい。


 他に誰がおんねん。


「美佳、視た感じは?」


 ホンマやったら依頼主さんがおらんくなってから聞くんやけどな。


 ヤバイのが確定しとるときは、もう本人の前で聞いとる。


「早急になんとかせんと……正直なところ、手遅れ一歩手前。貴女、昨日死のうとしたでしょ」


 依頼主さんが目を見開いた。


 当たりか。


「そうなんです。屋上から飛び降りようとしたみたいなんです」


「おーん」


 無意識。


 いや、操られてか。


「同僚が引き留めてくれなかったら、僕は今頃……」


 話すのもしんどそうや。


「ゆっくりでええから、最初っから話してくれるか」


「はい」


 深呼吸をして、ゆっくりと話し始めた。


「心霊スポットに行ったのはなんでなん」


「えっと、あの……僕は営業で成績はトップクラスです。仕事は大変やけど、やりがいがあって。ただ、うちの上司、パワハラというかモラハラというか、そういう気質があるんですけど」


「ほん」


「その人が『心霊スポットに行こう』って誘ってきて……」


 俯いてもた。


「断られへんかったんやな」


「はい」


 あー普段からハラスメントされてんねやったら、断られへんわなあ。


 可哀そうに。


「僕が車通勤で、上司は電車なんです。せやから、僕が運転して行くことになって」


「ほん。誘われたんは他に誰?」


 私が質問しとる間、美佳は基本的に口を開かん。


 必要があれば喋るけど。


「僕以外も誘っとるんかと思ったら、まさかの二人きりで」


 Oh……同情するぜ。


 二人っきりは心霊スポット行く前にメンタル終わる。


「どこ行ったん」


「××山です。会社から何時間もかかる場所なんですけど……ずっと道中僕に仕事のダメ出ししてきて」


「ねちねち言われたんか」


「はい。上司は僕よりも成績が結構下なんです」


 成程な。


 個人的な意見やけど、上司、後輩のアンタに成績を抜かされて悔しかったんとちゃうか。


 で、憂さ晴らしというか「こいつ痛い目に逢わせたろ。しばいたろ」的な感じなんやろなあ。


 あれ、お悩み相談やったっけ。


 ええわ。


 話はいくらでも聞いたる。


 その代わり、ちょっと金額上乗せしたろ。


 お金は大事や。


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