第1幕 平凡(?)な生活

第1話 追い出された

「おん?」


 家に電気ついとる。


「今日も起きてくれてるみたいやね」


「おーん」


 隣の家に視線を向けたら、電気は消えとる。


 当たり前やな。


 もう深夜やもん。


「幽霊さんが『お優しいご家族ですね』って」


「せやなぁ」


 バイトの日はどんなに遅くても起きとってくれる。


「ホンマに優しいね」


 ボソッと言った美佳の言葉を聞き逃すほど、私の耳は腐っとらん。


 なんて返したらええねん。


 これが初めてやないんよ。


 毎回悩むんよ。


 私らの家は隣り。


 と言っても、美佳の家は滅茶苦茶デカいんやけどな。


 本家やから。


 分家がいくつもある、本家。


 んで、私んとこは分家。


「ほな、幽霊さんいらっしゃーい」


 玄関のドアを開けた。


 鍵かかっとらんやんけ。


 深夜やぞ。


 閉めとけ。


「おかえり、二人とも……と幽霊さん」


 ニッコニコの母さんがリビングから出てきた。


 深夜テンションか。


 普通この時間やったら眠そうな顔しとんで。


「母さんよ」


「どないしたん」


「どないしたんやあらへんがな。深夜やで、鍵かけときーや」


「大丈夫やって」


「どっからその自信わいてくんねん」


 私らが揉めとる間に美佳は靴をさっさと脱いで、


「先にお風呂いただきまーす」


「冷めとるからあっためなおすんやでぇ」


「はーい」


 なんで美佳がうちに来とるんかって?


 お泊り?


 ちゃうちゃう。


 うちに住んどるし、うちから大学に通うとる。


 10歳んときに来たねん。


 本家を追い出されたから。


 あの子に憑りついた悪霊を祓おうとしたらな、号泣して拒否。


 そういうのが何度もあって追い出され、うちに来た。


 毎月きっちり養育費と迷惑料が振り込まれとるらしいわ。


 隣りやから手渡しでええのにな。


 どんだけ美佳と会いとうないねん。


 腹立つわ。


「あんたも手ぇ洗ろてきぃな」


「あん? あぁ……わかった」


 危ない危ない。


 あのまま本家の奴らのこと考えとったら、今から殴り込みに行っとったかもわからん。


 短気は損気。


 と、言い続けられて十数年。


 そんな簡単に性格はなおらんのですわ。


「あっ、凛子りんこぉ」


「ん?」


 洗面所は今入られへんから、台所で手を洗っとったら母さんが声をかけてきた。


「夜食食べるやろ?」


 確定事項かい。


 食べるけど。


「おん」


「幽霊さんも食べるんかなあ」


「知らん」


 母さんも父さんも霊感はある。


 薄っすらとな。


 会話はなんとかできるらしい。


 なんで私は霊感ないねんっ。

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