奇妙な共同生活

佐久間清美

本編

開幕

乾杯

「いやぁ、今回は楽やったね」


「ホンマに」


 バイト終わり、私たちは人気ひとけのない公園で缶ビールを煽る。


 暗いし公衆トイレは汚いし。


 遊具はサビれまくっとるし。


 酔っ払いでもない限りここには近づかん。


「幽霊さんも飲む?」


 美佳みかが背後に缶を差し出し、楽しそうに喋りかけた。


 もう酔ってんな?


 アンタは缶ビール1本で酔ってまうもんなあ。


「いえ、私は……」


「幽霊さんはなんて?」


 彼女と違って私は霊が視えんし声も聞こえん。


 憑りつかれてるらしいけどな。


 幽霊にイタズラされても気にせーへん。


 例えば。


 棚に置いていた人形が、触ってもないのに落ちたとする。


 私の反応。


「あ、落ちたなぁ」


 以上。


「肝座ってんなぁ。ある意味才能やね」


 って、よく美佳に言われる。


「いらんってさ。ビールは苦手らしいわ」


「ほーん。それやったらチューハイも買っとけばよかったな」


 折角改心してくれた幽霊さんに申し訳ない。


「ごめんな、幽霊さん」


「『お気になさらず』やってさ」


「ほーい」


 ほんなら気にせんとこ。


 私らのバイトは、主に『心霊スポットに行って悪霊に憑りつかれた馬鹿どもから、悪霊を引っぺがすこと』。


 引っぺがして、話し合い改心させるのが美佳の役割。


 改心せん悪霊は容赦なくあの世へGO。


 依頼を受け、報酬を受け取るのが私の役割や。


 報酬は基本10万円。


 高いんか安いんかはわからん。


 高すぎるってことはないんとちゃうかな。


 悪霊から解放されるわけやし。


 知らんけど。


りん


「ん?」


「幽霊さんが『見た目とは裏腹にお優しいんですね』やってさ」


「あはっ、そうなん?」


「『はい』」


 よう言われるわ。


 眉毛は全剃りしたからないし、年中和柄のアロハシャツに柄のズボン履いとるしな。


 友だちからは「ヤンキー」って言われとる。


 ヤンキーとちゃうし。


 真っ当な人間やし。


 童顔なのがコンプレックスやねん。


 せやからこういう服装しとんのに、多いときは二日に一回職質される。


 なんでや。


 私に職質しとるがあったら治安守れよ。


 あっ、私が治安を壊しそうな人間&未成年に見えるからか。


 しゃーないな、許したろ。


 でも頻度は落としてくれ。


「そろそろ帰ろか」


「せやな」


 美佳の提案に素直に同意。


 暑すぎる夏はようやっと終わ……ってないな。


 昼間はまだまだ暑い。


 夜は、


「風が冷たいわ。はよぉ帰ろ」


「そうやね」


 秋の訪れを感じさせる。


 私は美佳の手をとり、職質されんことを祈りながら帰路についた。

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