クローズーマルゲリーター 第三話

「なんで宿命なのかしら」

 

何度も考えたが、どれほど深く考えても、自問するばかりで答えは出なかった。

多分あの世にはあの世の考えがあるのだろう。


「わからない。ただ、そういう土地が見つかるからやれと言われた」

「それがここってわけね」 


康史は頷く。


「天国に行って訊いてみても誰も詳細を教えてくれないんだ。死んだらわかるのかもしれない」


「まあ、なにか背負わされたのかもしれないわね」


人々の声が聞こえる体質になったのも、天国を守る人たちが何かしたのだろうか。

千晶は眉間にしわを寄せ、両手を見ると、話題を変えた。


「生前の頃と何も変わらない感触があるわね。こちらの世界で生きていると言われても不思議じゃないくらい」


「天国にいるときと皮膚感触は違うのか」


「天国でもちゃんと皮膚感触はあるけど、多分ここから一歩外へ出れば私は無色透明の霊になるんだっていうことははっきりとわかる。多分店の外では何も触れられない」

「そうなのか」


康史はコーラを飲む。口の中で炭酸がはじけた。


ならなんで俺は天国へ行くことを許され、また此岸でも生きているのだろうかと不思議に思う。


「それで、これからどうするの、この店は」


「オープンの計画を立てたときが秋彼岸と重なることに気づいたのが、今年の三月だからな。そのころはまだ店の準備も間に合っていなかった。とりあえず、彼岸の間は彼岸食堂と名乗って、それ以外は別の店名を名乗って食堂をオープンさせるつもり」


「彼岸の間は一人で大変だったでしょう」


「くたくたになったよ。それでもみんなの喜ぶ顔を見たら、疲れも吹き飛んだ」


「でもあなたの体は、疲労困憊のはずよ」


さてはずっと天国から見ていたな、と思う。まあ体を気遣ってくれるだけありがたい。


「倒れたりしないでよ。コック業は大変なんだろうし。また天国に来て追い返すのも嫌よ」

「大丈夫だ。これでも体力はあるほうで」


「従業員は雇うんでしょう?」

「そのつもり。だけど、やっぱり彼岸食堂を理解してくれる人を雇わないとな。面接では不思議体験をしている人を探し出してみるよ」

「不思議体験をしている人もわかるの」

「なんとなく、ね。でも面接で直接聞くつもり」


こぶしを作り、親指を立てた。人を見ると、死にかけたことのある人もわかるのだ。そういう人は、彼岸と繋がりやすくなっている。別に死にやすくなったというわけではない。逆に死に対する守りが強くなるのだ。


「まあせっかくあなたが持ちたかったお店だものね」


康史は頷く。自分の店を、ずっと持ちたいと思っていた。事故はある意味で好機となったのかもしれない。料理長時代に株や投資をしていたから貯蓄額は結構ある。


自らの資金で土地ごと買い、建てた店だ。この店を大切に育てていこう。


「さあ、これからが本番だ。これからは此岸の客をどんどん入れる。メニューはもう考えてあるし、夜はお酒も提供しようと思っている」


従業員の募集も今かけているところだ。


「宣伝も怠らずにね」

「ホームページも出来上がっている」

「店の名前はなににするの」


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