クローズーマルゲリーター 第二話
「やだ、そんなこと言わないでよ。あなたは生きて此岸にいるでしょ」
「はは」
千晶には天国で、彼岸食堂へ招待する人の案内係を集めてもらっていた。そうして彼岸から来る人の数を確認するために彼岸へ行ったときに、桃子にせがまれた。
客にはこの食堂で一度しか会えない決まりにしたのに、康史は千晶と何度も天国で会っている。それは少し心苦しかったが、死者と会う人は彼ら彼女らに依存しないようにの配慮からだ。
後悔を持ち何度も何度も死者に会うのもよくないと思った。
自分のことは棚に上げているが。
「マルゲリータ、そろそろいいかな」
パーラーで焼き加減を見て、マルゲリータを取り出すと、皿に乗せ、バジルを盛る。
「いい香りね」
「特性のオリーブオイルとトマトソースを使っているからな。飲み物はコーラでいいな」
ピザと言えばコーラだと、千晶は言ってきかなかった。
「ええ、もちろん」
「じゃあ客席で食べよう」
康史は一枚のピザを四枚ずつに切り分けると、千晶を促した。
客席の中央に座り、グラスにコーラを入れて乾杯する。店には誰もいない。康史と千
晶だけの時間。ざわめきもなく静かだ。
「今も聞こえるの? その、色々な人の念のような声が」
「毎日のように聞こえてくるよ。なんか本当、変な体質になっちまった」
マルゲリータは我ながらもちもちとして、香りもよく、チーズが口の中で溶けていい出来栄えになった。
「じゃあ、来年も彼岸食堂はやるのね。今回が初の試みでしょ」
「そう。今もいろいろな声が聞こえるから、念の強い人から順に、住所を探るところだ。今回の彼岸食堂はなんとかうまくいってよかったよ」
「でも、採算度外視じゃ利益も出ないでしょう」
「仕方がないさ。俺には何か役割ができたのだろう。苦しんでいる人から高額な料金は取れない。それに修行だと思えば」
「修業って仏教的な」
「そうそう。彼岸は仏教的な意味合いが強いからね」
千晶はおいしそうにマルゲリータを食べている。カリッという音がした。
「ああ、やっぱりいいわね。あなたの作るマルゲリータは。本当に美味しい」
「よくこうやって向かい合って食べたよな」
「懐かしい。天国ではなぜ味がしないのか不思議だわ」
「それが罰なんだってさ」
「罰?」
「人間は生まれてから何らかの罪を背負う。生物の命を奪い食べ物を食べることだって、罪になるんだってさ。だから生前の行いの有無にかかわらず、天国にいる人はみな、等しく罰を受けているんだって。それが味覚」
千晶は驚いたようにのけぞる。
「なにそれ。そんな話聞いたことない。どこで聞いたの」
「天国へ行ったときに、天国を守っている人から聞いた。悪人は悪人で相応の罰を受けて地獄的なところへ行くらしいけれど」
「人は善人でも全員罪を犯しているっていうこと」
「そういうことになる」
「じゃあ何でここにいるときはこうやって味を感じられるの」
「この彼岸食堂は、その天国の人にやれと言われたんだよ。それがお前の宿命だ、みたいなことを言われた。だから天国の人の取り計らいで、此岸に来た死者が生前の頃と同じ肉体をもってやってこられるんじゃないかな」
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