結婚しよう―チョコレートパフェー 第九話

「じゃあ、愛里、今日の出来事を祝って。乾杯」


カチンとワイングラスを重ね、飲んだ。久しぶり飲むワインはスーパーのものでもまろやかだ。今、愛里はモニターから見てくれているのかな。一緒に食べたかったよ。


「今日は帰りにいいものを見たよ。結婚式をしていた」


愛里がいるように語り掛ける。だが返事はなにも帰ってこない。


「花嫁さん綺麗だった。もちろん、愛里のほうが綺麗だけど」


天国から見て、なにか言ってくれているだろうか。


ナイフとフォークで牛肉を切り、一口食べる。


「うん、ステーキも旨い。愛里も食べられたらよかったのにな」


虚無が心を襲う。生きた新郎新婦を見てしまったから心の奥底では嫉妬している。 


良くない感情。このような気持ちになるのは、愛里が死んだと知った日以来だ。


立ち直って大丈夫と思っていたけれど、悠一の心は案外脆かった。


ここにいてくれ。目の前にいてくれ。深い本音のところでそう思う。


それでも顔は笑顔で、愛里に語り続ける。牛ステーキが重く胃に響いていく。


ステーキを食べ終えた後、シンクに食器を置くと、二つの小皿にケーキを乗せた。


自分の席と正面にケーキを置く。


「今日は会えて嬉しかった。本当にありがとう」


そう言って柔らかく甘いケーキを一口食べる。


口の中でとろけて、瞬間涙が出てきた。これまで無意識下でずっとずっと我慢してきた涙だ。


「あれ、俺はなんで泣いているんだろうな。ごめんごめん」


悠一は笑いながら涙を拭く。


「愛里、ごめんな」


それでもあとからあとから涙は溢れてきて止まらなくなり、押し殺してきた感情が一気に放出した。悠一は愛里が死んでから、初めて大声を上げて泣いた。


指輪が蛍光灯に反射して光っていた。 

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