結婚しよう―チョコレートパフェー 第五話

「ドリンクです。どうぞ」

 

カフェラテが目の前に置かれ、替わりにパフェの容器が下げられる。


「みんな言う。愛里ではない他の女性と一緒になって、家庭を作れって。でも僕は愛里じゃない女性なんて考えられない。他の女性と一緒になるくらいなら一生独身でいようと決めている。だって、僕が世界一愛しているのは愛里だから」


愛里はますます困ったような顔を向ける。


「どうしてそこまで……」

「自分でもわからない。でもなんでか君じゃないとだめなんだ」

「……たまに悠一のこと、モニターから見ている。一人暮らしも大変そうに見えるけど」

「なにを見たの」

「自炊失敗しているところ」


ああ、と頷く。一度鍋を焦がしたことがある。鍋に入っていたかぼちゃも真っ黒になった。


「ちょっと放っておいたらすぐにああなっちゃって」

「面白くて吹き出しちゃった」


愛里は思い出したのか笑った。そうして、寂しそうな顔をする。


「あの時、あなたのそばにいられたらって思った。そうすれば、かぼちゃも焦がさずに済んだのに」


「なんだ、やっぱり僕のこと気にかけてくれてるんじゃん」

「そりゃ気になるよ。彼氏だし、あの事故にあった日だってもしかしたらプロポーズをしてくれるんじゃないかって薄々期待していたくらいだもの」


愛里はカフェラテを一口飲み、「美味しい」と言った。


悠一も飲むことにした。そうして黒い渦のようなものが溢れてくる。


「気にしてくれているのにプロポーズは受けてくれないの」


指輪は白いクロスのかけられたテーブルの中央に、ケースの蓋が明かれておいてある。


「受け取れないわよ。今日は特別だけれど彼岸食堂で会えるのは一度きりと聞いたわ。もう二度と会えないのよ」


愛里は深刻な表情で言って続ける。


「それに一生独身だったら、あなたが死ぬとき誰が看取るの。あなたは私のことなんか忘れて新しい家族を作って生きていかなくちゃ」


「僕が死ぬときは、愛里が迎えに来てくれればいい。一人で死んだって構わない。死んだらただ肉体だけが朽ちて残るだけだ」


「その朽ちた肉体は誰が処理するのよ」


「僕には兄がいるし。まだ子供はできていないけど、甥っ子か姪っ子に頼んでおくよ」


愛里はしばらく沈黙していた。なにを考えているのかはさすがに分からなかった。


「天国に好きな人、いないでしょ。さっきのは嘘だよね」


確かめるために、もう一度訪ねてみた。愛里は嘘を見抜かれると思ったのか、小さく頷いた。


「天国にも彼氏はいないね」

「いない」

「さっき君は女性ばかりのグループと部活のように刺繍作りをしていると言った。それは君なりの配慮だろ。僕にはわかるよ。女性の友達しか作らないのも、どこかに僕のことが引っかかっているからだよね」


図星だったのか、愛里は大きな目をさらに大きくした。


「そうかもしれない。いつもあなたのことを考えていて、あなたに遠慮して、男性の知り合いはご近所さんくらいしかいない」

「なら、僕のこと嫌いじゃないんだよね」


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