もしも……ーカキフライー 第十話
神様。
私は母親に人生を決められ生きてきました。口答えは許されず、親にコントロールをされてきました。姉にも無視されます。学校環境も最悪でした。
十代の終わりにストレスから不眠と鬱病を発症しました。未だ、完治していません。
二十代の時は死ぬことしか考えられず、出会いも全て逃しました。いいえ。出会いがあっても親に阻止されたかもしれません。私はこのまま一生一人ですか?
お願いします。次生まれ変わるときは、子育てがうまい親の元に生まれたいです。
兄弟姉妹がいるなら、無視されず仲良くできますように。そうして今の人生を吹き飛ばせるくらいの楽しい人生を送らせてください。病気をせず、穏やかな学校に入り、いじめなどなく好きな人と結ばれる。
今度生まれるときは、どうか、そういう人生を歩ませてください。そうして、希海先生と一番の友達になれますように。もしも生まれ変わりがあるのなら、私の人生をどうか良いものにしてください。
帰りの電車の中で、必死にそう祈っていた。希海先生のように、もう今世は諦めて、来世に賭けている部分も少なからずある。でも諦めるなと言われた。
十代の終わりから二十二年、病を患っている。
鬱病になんてなるものじゃない。そして、なりたくてなったわけじゃない。
家にたどり着いたときは、七時を過ぎていた。姉がちょうど、会社から家に帰ってきたところだった。唄子を見ると、ふん、と鼻息を鳴らす。
父はまだ会社勤めをしている。だから帰ってきていない。
母は早めに食事を済ませてしまったということで、姉と食卓を囲うことになった。
カキフライを食べたけれど、一時間半かかるし、希海先生の家に行っていたしで結構体力を使っていた。もうお腹はすいている。
夕飯は、皿うどんだった。カロリー的にはちょうどいいかもしれない。
「お前、今日どこ行っていたの」
姉が久しぶりに口をきいた。
「人に会いに」
「お茶でもしたの」
「一緒にご飯を食べた」
「いいね、暇で。そうやって親のすねを未だかじりながらお前はのうのうと生きていくのかよ」
「…………」
姉はゴミを見るような目で唄子を見つめている。その視線に耐え切れずに、目を逸らした。この姉にも、幼少のころはいつもいじめられてきたように思う。
おもちゃを取り上げられ破壊されたり、近所の子と姉と唄子で遊んでいるときは姉が率先してハブにしたり。
それでも負けじと言った。
「そんなに私のことが嫌い? なら出ていけば」
この姉は、妹を可愛いと思ったことなど一度もないのだ。
「出ていきたいわよ」
「金遣い荒いから、出ていける金がないんでしょう。人のこと言う前に自分のことを考えたら」
「なによ、妹の癖に」
姉はコップの水を、唄子に思いきりかけた。
「こら、やめなさい!」
母は姉に怒る。
「妹にこういうことするんだ。あんたは私を妹と認識したことなんてないでしょう。ただのものなのね。無視を決め込んだと思ったら今度は年下に八つ当たり? いいね、年下にストレス発散できるご身分で」
初めて姉に反抗している。子供みたいな喧嘩だが言いたいことは言わなくちゃ。この姉は、どこか人として欠落しているのだ。彼女も彼女で、病気なのかもしれない。家は居心地が悪い。いつも空気がギスギスしている。
姉は掴みかかってきそうな勢いだったが、唄子は立ち上がり、食事には手を付けずに二階の自室へ行った。
言い合いをして興奮していた。涙は出ず、気分が沈んでいきそうになる。それを必死でこらえるようにした。あまり考えていると鬱にまっしぐらだ。
悪いことをして生きているわけじゃないのだから、のうのうと生きていてもいい。
それはいつか、姉に今日と同じようなことを言われて希海先生が励ましてくれた言葉だった。
でも、唄子も早くこの家から出ていきたい。いつ母がノックなしで部屋に入って来るかもわからない。
パソコンの電源をつけた。希海先生もいろいろなことに巡り合わせてくれるよう、サポートすると言ってくれた。なら私も頑張って動かなければ。そう思って、婚活サイトを見てみる。
結婚相談所は高くて利用できない。やはり婚活サイトを使うしか他にない。
今度こそ、ヤリモクでもDV気質でもない人と出会いたい。四十代、五十代で独身の人もたくさんいる。
それに、四十代になっても結婚できないからといって、軽蔑する対象にはならないはずだ。世の中には愛し合って結婚しても離婚してしまう人だっているし、死に別れてシングルになる人だっている。それなのに初婚だけは違った目で見られる。
以前使用したサイトとは別の複数のサイトを慎重に、見ていく。複数登録してしまってもいいかもしれない。今度好きな人ができたら、また親に阻止されるのだろうか。それはもうやめてほしい。親とも話し合って、過干渉をやめてもらわなければ。そうしないと、親が死ぬまで唄子はこの家から逃れられない。
男性も女性も月三千円。そんなサイトがあった。少しだけ見られる男性のプロフィールを見てみると、四十代や五十代の人もたくさんいた。でも四十代男性はきっと、二十代、三十代を狙うだろう。四十代男性がなぜ二十代女性と付き合えると思うのか謎だが。
まあ、一緒にいて幸せと感じられて添い遂げられる人が一人いれば、それでいい。
みんな、二十代から三十代でそれをやってのけている。なぜ自分にはそれができなかったのだろう。
たった一人にどうか、出会えますように。
人生八十年として、せめて残りの四十年は幸せに生きたい。
丁寧にサイトを見てから、一つ登録してみる。プロフィールも丁寧に書くことにした。
嘘をつかずに、精神疾患持ちであることも書いてみる。ネットでは精神疾患持ちはいろいろと揶揄されているが、そういう人たちだってきっと病んでいるのだ。
これでだめでも、どこかに縁はある。希海先生がそう教えてくれた。
彼岸食堂には、一人で客として行くのはだめなのだろうか。今度電話で聞いてみよう。
そこにもなにかしらの出会いはあるのかもしれない。
翌日、二通ほどメールが来ていた。
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