もしも……ーカキフライー 第七話


「食後のドリンクをお持ちしますね」

「お願いします」


唄子は会釈をする。


「体の水分を抜く前と、心臓の手術をする前に、同じ検査をしなければならなかった。それが私嫌で。精神的に少しきつい検査が二、三あるの。半年以内なら同じ検査を受けなくていいって言われたから、決行したのよ。ちゃんと占いで見てはいたんだけどね。占いだけではどうにもならないこともあるみたい。まあ、大局的には私の死ぬ時期とも出ていたのだけれど。でもそれは、母のせいでも唄子さんのせいでもなくて、私が選んだことだし」


「それでも、私は先生に生きていてほしかったです……亡くなってから三か月は立ち直れませんでした。それに、今だって先生がいないことに漠然とした虚無を感じることがあるんです」


「……ごめんね」


希海先生は小さくそれだけ言った。


「ドリンクです」


ホットの紅茶が運ばれてくる。


白いティーポットに入っており、白いカップに紅茶を注ぐ。白い湯気が立ちのぼった。


「私もやっぱりこの人生があまり好きではありません。どん底から這い上がれずにもう二十年経ちます。生きても生きてもなにもない。ただ時々鬱になって気分が沈み込むだけ。まともに働くこともできない。人生詰んでいるので私も早く死にたいです」


日ごろから思っていることをそのまま言った。希海先生は優雅に紅茶を淹れ、砂糖も

ミルクも入れずに一口飲んでいる。


「……私たち、あまりいい人生じゃないよね」

「はい。星の回りも悪すぎますし」


そうなのだ。命式に、いい星、助けになるような星が全然入っていない。助けになる星が巡るのは六十になってからだ。それは本当にうれしくない。


「幸せって、不公平だと思う。不幸なら不幸な分だけ同じくらい幸せが来るという人がいると思うけど、絶対に嘘。幸せ指数って決まっていて、平等じゃないと思う」


「私もそう思います」


「でもね、唄子さんの人生はまだ続いている。星の回りが悪くても、なんとかしていい人生にしないと」


「どうやっていい人生にしていけばいいのでしょう」


「自分から行動を起こしていかないと。でも、それでも唄子さんには厳しいのよね。体調的に。身動きが取れない状態で」


「はい。希海先生と出会ったから、私の人生は少しは良い方向に転がったんです。鬱も大分よくなりましたし。でも気分の波はあって、不調な時は本当に動けなくなります」


「でも今日はこうしてここに来ているじゃない」


希海先生はカップを両手で囲った。


「はい。会いたい一心で来られました。でも先生はもういないんです。今はこうして目の前にいるけれど、この店を出たらまたお別れ。それが辛いです」


「私もそれは辛いかな。唄子さんにも、私のこと色々聞いてもらっていたから」


そうなのだ。お互い、二週に一度の二時間という中で日々の辛いことを言い合っていた。


特に母親との確執。希海先生の親もまた、過干渉だった。


「先生は今、幸せですか」


訊ねると、小首をかしげた。


「生きていたときのようなストレスはなくなったかな。でも、生前のしがらみみたいなものはやっぱり感じる。母はほぼ毎日のようにお墓参りに来るしね」


「お母様に会いたいですか」


「一度くらいはね。でも、一度で十分」


希海先生自身は自身の親とは違い、そこまで聡子のことを気にかけていないらしい。


「死んだ私のことより、唄子さんの人生をより良いものにしていかないと」

「はい」

「いい男性やいい人、ものや職場に巡り合えるように、私も天からサポートする」


唄子は思わず顔を上げた。


「そんなことできるのですか」

「まあ、人をサポートしたいときには許可が必要なんだけれど、唄子さんのためだもの。なんとか巡り合わせるくらいはできると思う。それで早く実家から出ましょう」

「はい」


希海先生がそう言ってくれるなら、それはとても心強く感じられた。


なんといっても自分はまだ生きなければならない。そう思うと憂鬱だけれど、希海先生が見てくれているのならば、まだなんとかやっていけそうな気はする。


紅茶をお代わりした。


「あの。先生。ひとつ言ってもいいですか」


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