もしも……ーカキフライー 第二話
算命学は結局頓挫し、中途半端にしか見ることができない。
それでも希海先生との時間はなによりもかけがえのない思い出として残っている。
希海先生は、覚悟をしていたのだと思う。幼少期からの入退院に嫌気がさしていたらしいし、人生にも、見切りをつけていたのかもしれない。
スマホから仕事関係以外の全ての履歴が消えていた、とお線香をあげにいった時、希海先生の母親、聡子から聞かされた。
「親より先に死ぬなんていう親不孝は唄子ちゃん、絶対しないでね」
そんなことも言われた。唄子は生きている。二十代のころは毎日のように自殺を考えていたのに。鬱病は特に酷くなると、死ぬこと以外考えられなくなるのだ。全ての状況において、死が前提に来る。
そうして今四十になった。いまだ独り身で、鬱も完治はしていない。
四十で独身だと偏見の目で見てくる人も多い。選ばれる努力をなんでしてこなかったのか、とかもう絶望的だとか言ってくる人もいる。
働くのは週二程度。経済的な自立ができずにもどかしい思いがしたが、親が死んだら餓死しか道はなくなる。未だ親の扶養に入っているのも情けない。
でも、底辺なりに、今は精神的に落ち着いた穏やかな暮らしはできている。
思い出の一品は特になかった。夢で作ったカキフライが気になるからカキフライ、と書いてみたけれど、現実では一緒に作ったこともなければ食べたこともない。
彼岸食堂。そういう場所があるのだと、唄子は疑いもせずに受け止めた。
行ったらどうなるのかわからない。ただカキフライを食べて終わるのかもしれない。
まだ暑い。秋らしい服装にしようかと思ったけれど、結局は暑さに負け、夏服で希海先生の母親である聡子に許可を取り、お墓参りに行った。
多分彼岸に入ってすぐに聡子がお墓参りに行っただろうと思って、花は持ってこなかった。聡子も占い師で、占い師はお墓を大切にする。だからお墓につくと、案の定なにもすることがないくらい墓石は綺麗で、花も飾られていた。
それでも一応唄子も墓石を掃除し、線香をあげて手を合わせた。
――先生、お元気ですか。お久しぶりですね。私、まだ独身です。
心の中でそんなことを言った。希海先生も、持病の心臓のことで自信がなかったのか、結婚はしたいと言っていたけれど積極的にはなれなかったようだ。
地図を確認する。遠く感じられる。でも昔では考えられないほど体力も回復している。
二十代のころは心療内科へ行くだけでも、鉛を背負っているようで一苦労だった。
基本的に動けなかったのだ。
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