もしも……ーカキフライー 第一話


数か月前に夢を見た。


どこかの家で希海のぞみ先生と一緒にカキフライを作り、一緒に食べようとした。

 

けれど夢の中では一緒にご飯を食べるところはカットされ、帰り道に場面が移った。


よもつへぐいという言葉があるように、生きている者と死んでいる者は夢の中でさえ、一緒に食事をしてはいけないのかもしれない。


もしかしたら私はあの時黄泉の国へ行っていたのではないか――


そんなことを大田唄子は思った。黄泉の国と言ったら語弊があるかもしれないけれど、いわば天国へ行ってしまったのかもしれない。


希海先生は、唄子よりも九歳上の独身女性で、算命学の師弟関係にあった。


算命学というのは陰陽五行説に基づいた占いの一種で、深い読みを必要としていく。


唄子が酷い鬱を患っていたとき、たまたま母の知り合いの娘さんが占いをしているから見てもらってきなさいと言われた。


そうして重たい心と体を引きずって見てもらうと、唄子の家庭環境や姉妹関係、過去から現在の状態など、なにもかもを当てられた。


びっくりして、そのあと二度見てもらい、弟子入りした。


鬱病でろくに働けず、異性とも出会えず、ただ真っ暗な中をひたすらあがいていたところに見出した一筋の光明。なにより希海先生は、人柄もよく明るかった。


占いよりも、人柄にほれ込んだのかもしれない。唄子の話をじっくりと聞き、占いを交えて状況の解明をしてくれた。


鬱になった原因は、なんでもコントロールしたがる親と、幼少の頃よりわけもなく無視をし続ける姉の影響。劣悪な学校環境。凶方位に偏りのある命式。つまり、占術的にも最悪の学校へ行っていたらしい。


希海先生はものの見方や見識も幅広くて、見習いたいことも多くあった。


最初は通うだけでもしんどかったけれど、十年という年月をかけて、少しずつ鬱が解きほぐされ、視野狭窄に陥っていた唄子も少しは明るくなった。希海先生は決して怒ることはせず、辛抱強く唄子の鬱を見守ってくれていた。


わからないことがあると根気強くわかるまで教えてくれた。姉がこのような人だったら良かったのに、といつも思ったものだ。



だがそんな先生には、弟がいる。いつも、弟憎しのような発言をしていた。



幼少のころ、散々面倒を見たのにいつも可愛がられ優先されるのは長男である弟だったという。そうして大人になっても、長男がなによりも大切に、優先された。


それなのに第一子の姉である自分が弟のためにいろいろ便宜を図ったり、動いたりする。弟は、結局気の利かない大人になってしまったとか。そうしてもう第一子は嫌だといつも言っていた。


うちの姉もそうなのだろうかと思うけれど、姉妹と姉弟では、扱いに差が出るようだ。


唄子の両親は、姉と妹で同じように育てている。だが、唄子の友達も第一子の長女で、やはり第二子の長男である弟のほうが優遇されてしまうようだ。あまりの扱いの差に、泣いたこともあるという。


希海先生には生まれつき持病があった。心臓に小さな穴が開いており、幼少の時に手術をしたらしい。


普通の生活はできるようになったけれど、穴は完全にはふさがり切れず、注意が必要だった。心臓が悪ければ、連動するように肝臓や腎臓にも影響が出る。


十年ほどお世話になったが、最後の二年は、肝臓や体に水が溜まり、体中がむくんでいた。そうしてラスト一年。


授業は休みになり、体内の余分な水分を抜くために入院をした。しかし肝臓を診る医者と心臓を診る医者は別で、心臓を診ていた医者が、今は医学の進歩で心臓の穴をふさぐ手術ができると何度も説得されたそうだ。どうだい、手術をしてみないかと、半ば急かされていたという。希海先生は仕方なくそれに乗った。体にたまった水分を抜いた後、一か月もしないうちに心臓の手術をしてしまった。それがいけなかったのか、手術は成功したように見えたが、術後、血液が脳に飛んで亡くなってしまった。

 

体内の水分を抜いた後で体力がなかったはずだ。


あの時心臓の手術を引きとめておけば。弟子としてはっきり、もう少し時間を置いて手術をすることを進言していれば。


そんな後悔を、今でも持ち続けている。なぜ配慮ができなかったのだろう。


医者もなぜ止めなかったのだろう。


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