大丈夫だよーお子様ランチ 第七話
それで私は何と答えていたっけ?
思い出そうとするが、そこは思い出せなかった。
私もやりたいと言われて、一緒にフライパンの柄を持ち、敷いた卵をきれいにひっくり返したこともある。桃子はそれだけでも随分喜んでいた。
いつも礼子にまとわりついた桃子が、昨日は精神的な成長を見せていた。
病気になってから聡くなってしまったのか、大人びた態度を礼子と博之に見せていたけれど、さらなる成長を感じていた。
パパとママが近くにいなくても泣かない。私は自分の人生を天国で歩む。そのような毅然とした態度だった。まさか年齢一桁の娘に怒られ、諭されるとは思ってもみなかった。
オムレツの具材を卵で包んだ三十分後に、博之は帰ってきた。
「ただいま」
「お帰りなさい」
博之の表情も、どこか吹っ切れているようだ。礼子は妊娠検査薬で陽性だったことを、なんて言おうか考えた。博之は洗面室で手を洗い、着替えを済ませると、席に座った。
「オムレツか。桃子が好きだったな」
食卓に並べられたお皿を見て、博之はつぶやいた。
「ええ。あえて作ってみたの。昼間は桃子が好きだったクッキーも作ったわ」
「どうだ。少しは気持ち、落ち着いたか」
礼子はゆっくりと首を縦に振る。
「桃子と過ごした楽しかったことを思い出していたの。あの子、昔は私から離れなくて」
自然と笑みがこぼれた。
「久々に笑ったな」
はっとする。そういえば心が少しだけ軽くなっている。
「そういうあなたこそどうなの」
「俺も昼休み、桃子と過ごした楽しいことを思い出していた。そういえば桃子は『将来パパのお嫁さんになりたい』って言ってくれたことはなかったなって。ちょっと寂しい」
「ふふ。桃子には、もしかしたらお父さんより好きな人がいたのかもしれないわね」
「なんだと? 誰だか知っているのか」
博之は真顔になった。
「知らないけれど。女の子はすぐに好きな子見つけちゃうものよ」
「父親として納得がいかん」
二人で顔を見合わせ、笑った。博之とこうした話をして、食卓に笑いが戻ってきたのも何年ぶりだろう。今、緊張もあるがリラックスもしている。これまで食卓は暗いもので、お互いいつも、どこか張り詰めていた。張り詰めていたところでもうどうにもならないのに、桃子の闘病生活時の癖が抜けきっていなかった。
「じゃあ頂くよ」
博之はオムレツを食べ始める。礼子も食べた。早いもので桃子に会ってからもう一日が過ぎてしまった。
「桃子は今、俺たちのことを見ているのかな」
「毎日見ているって言っていなかった?」
「じゃあきっと、今も見ているな。笑って食事をするのが彼女の望みなのだろう」
「そうね」
「オムレツ、美味い」
博之は気の緩んだ顔で食べている。なんだか二人の間に流れる空気も柔らかくなっている。
「ところで私――」
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