ありがとうー海鮮丼ー 第七話

「飲み物、勝手にアイスグリーンティーにしてしまったけど良かったか」

「アイスグリーンティー」

 

からかうように理人は言った。


「笑うなよ。俺も言ってから恥ずかしくなった」

「それよりさっき泣いたから目が真っ赤だぞ」

「ああ……」


沈黙が流れる。俺は俺の道を生きていってもいいのだろうか。でも、代わりに理人の人生を送れるわけでもない。


「食後のアイスグリーンティーです」


東郷は緑色の液体の入ったグラスを持ってきた。理人は東郷をからかうことはなかった。


「そういや、天国じゃお茶も味がしないのか」

「あまり旨味は感じないな。うっすらと感じるだけ」


理人はアイスグリーンティーにプラスチックのストローをさし、一口飲んでいた。


「うん、お茶もなんか久しぶりに、お茶って感じのものを飲んだよ。冷たいけど」

「温かいほうがよかったか」

「どっちでも」


他愛のない会話をしていても、上滑りしていく。理人も感じとったのか笑った。


「お前がそんなに後悔しているならさ、俺の天国での本当の生活を教えてやるよ」

「本当の生活って」


理人は真顔になった。


「気になる子がいるんだ。もう少し仲良くなったら告白しようかと思っている」

「気になる子って」

「女の子だよ、女の子!」


理人は語調を強めた。そうしてようやく吉樹は何のことか理解する。


「恋をしているってことか」

「そう。ご近所さんで、とっても可愛いんだ。ゴミ出しに行くときなんか挨拶したりしてさ。なんで死んだのかは知らないけれど、頑張って声をかけているところだよ」


意外な話で驚く。


「天国で恋愛もできるのか」

「恋愛は禁止されていないよ。ただ、結婚と、体の関係を持つことは禁じられている」

「なんで」

「転生するかもしれないからさ。妻子なんかできたら未練たらたらになって生まれ変わることさえできなくなる。だからそれは許されていないんだよ。ルール破りは即刻、魂もろとも消滅する。キスもダメだと聞く」

「そんなに厳しいのか」

「ああ、体の関係を持つことにはかなり厳しい。でもま、それさえ守れば後は転生するまでのんびり過ごすだけさ」


転生。それを聞いて怖くなった。


「理人も天国からいなくなる時が来るのか」


全く別人になって生まれ変わったら、もう会えない。六十年、七十年先に理人は本当に待っていてくれるのだろうか。


「そりゃな。でも、人間はそんなに早く転生はしないってさ」


吉樹は胸をなでおろす。


「それを聞いてほっとしたぜ。俺が死ぬときはお前に迎えに来てほしいんだよ」

「じゃあ、そうしてやるよ」

「で、どうなんだ。その子とは。何歳くらいなの」

「十代だと思う。まだ全然進展はないよ。ただ仲良くなったら一緒にどこかへ遊びに行きたいとは思っている。遊びに行くくらいなら許されるし」


十代。やっぱり理人の時は止まっているのだ。


吉樹はもう、十代の子にほとんど興味はなくなっている。


理人はアイスグリーンティーを半分まで飲んだ。


「吉樹。俺もあの世で青春しているんだよ。不満なんかまるでない生活を送っている。お前は自分のせいで俺を死なせてしまって、恋愛も家庭も作れない、青春なんかできないと思っているみたいだけど、気にしなくていいんだよ。俺は俺で今その子に夢中なんだからさ」


それを聞いて、少し楽になった。なんだ。理人にもあの世で好きな子ができたのか。


家庭を持つことができなくても、ときめきは味わっているのだ。そう思うと、なんだか急におかしくなってきた。


「なに笑っているんだよ」

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