ありがとうー海鮮丼ー 第三話
「せっかく会えたのになにびびって黙り込んでいるんだよ」
理人は笑いながら腰を掛ける。
「理人、なのか」
座り直して口にしてみるが、どう見ても理人だ。
顔は高校三年の時のあどけなさの残るまま、変わっていない。死んだときの顔でもない。生きていた時の理人のままだ。
「友人の顔、忘れちまったか」
「いや、そんなわけないだろ。どうしてお前がここにいるんだ」
「彼岸の時にだけ、此岸と繋がる食堂があって、彼岸と此岸の者が邂逅できるって話をあの世で聞いた。それがここみたいだな」
まさか理人に会えるなど考えてもいなかった。
彼岸と此岸がつながる食堂? なんだそりゃ。
でも、事実は事実として目の前にある。信じられないが、目に映るのは何度瞬きしても友人の顔だ。
「墓参りありがとう。この透明な花瓶に活けられた花も綺麗だな。お前が持参してくれたんだろ」
目の前の花瓶を見て、花に触れている。ものにも触れられるのだ。
「墓参りに行ったこと知っているのか」
「ああ。わかるんだよ、そういうの」
「なんかお前の墓参りをしていたら、子供に絡まれちまってな」
店内は涼しいが、まだ外気からの熱はひいていない。水を一気に飲み干す。
「お前って本当に子供に好かれるよな」
「なんでだろう」
「親しみやすい雰囲気でも出ているんじゃないのか」
「まあ、いいや。それよりお前、天国でどうしているんだよ」
理人はしばらく天国での生活を教えてくれた。住居があてがわれ、割と自由に生活ができているらしい。
お盆には天国から実家に帰っているそうだ。もちろん家族には見えない。
「九月初めにあの世で黒い服を着た人が訊ねてきて招待状を渡された。吉樹が会いたがっているということも知った。それで、指定された今日、ここに来たのさ」
「来たってどうやって。入口から来ていないよな?」
「ああ、専用の直通エレベーターがあそこにある」
妙に空いている空間を指さす。
なにも見えない。鳥肌が立った。今この店は、あの世とこの世が繋がっているのだ。
じゃあ、この店にいる人も半数は故人なのか。ああ、だから泣いている人がいたのか、と理解する。
「不思議そうにしているけどせっかくなんだしとにかく話そうぜ」
「おう。外は暑いよ」
理人がいることに不思議な感覚を味わいながら、もう一度水を飲み、訊ねる。
「メニュー、海鮮丼にしてしまったがよかったか?」
「もちろん。ずっと食べたいと思っていたところだよ」
天国にも、海はあるらしい。たまに泳ぎに行くのだとか。
だが海鮮丼はどこにもないという。
「吉樹は今、大学生か」
訊かれて、罪悪の念が湧いた。
「そうだよ」
「彼女とかいるの」
「いないよ」
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