ありがとうー海鮮丼ー 第一話
友人の理人(りひと)の命日には欠かさず墓参りをしているが、彼岸の時期に墓参りに来たのは初めてだ。
今はまだ夏休み。お墓にはもう家族が来てしまったのか、綺麗に掃除され花も添えてある。これ以上花立てに花は入れられない状態だ。
……持ち帰るか。
子供がいつの間にか近くにやってきて一人、声をかけてきた。
女の子だ。年齢は十歳くらいだろうか。なぜか吉樹には子供がえらくなつく。
一時は毎日のように、日に何度も全員別の、見知らぬ子供たちになつかれた。
「お兄ちゃんもお墓参り?」
「そうだよ。大切な友人の」
「友達亡くしたの?」
女の子の目は無邪気さの中にも同情が混ざっていた。
「うん。君は」
「ごせんぞ、のお墓参りだって。お父さんとお母さんと来ている」
子供の教育に一役買うか。
「じゃあ、ご先祖にお礼を言うんだよ」
「お礼?」
女の子は首をかしげる。
「今君が生きているのはご先祖のおかげだから」
「うん、わかった。お兄ちゃんは友達亡くして辛くないの」
「辛いよ」
遠くのほうで、両親と思われる人が女の子の名を呼んだ。女の子はまだ何か話したそうにしていたが、慌てたように言った。
「行かなきゃ。じゃあね」
「バイバイ」
走り去っていく。一人になって、ため息をついた。
理人(りひと)とは小学生からの付き合いだった。腐れ縁というやつだ。仲が良く、学校生活も理人がいたから楽しく過ごせた。
中学一年から、小遣いを貯めて夏には毎年男二人で海へ行った。江ノ島、九十九里浜、木更津、他。同じ高校に入ると海に行くためにバイトもした。大学生になったら泊まりがけで遠くの海へ行こう。そんな約束もしていた。
毎回泳いだ後に食べる海鮮丼が最高で、だから妙な招待状が届いたときも迷わず返信ハガキに海鮮丼と書いた。
それはよかったのか、よくなかったのか。
高校三年の夏、海で溺れた吉樹を、理人が自分の命と引き換えに助けた。溺れて意識の失った俺を助けようとして、理人も溺れたのだ。そうして死んだのは理人。
すぐにライフセイバーを呼べばよかったのに。そうすれば二人で死ぬことなんてなかった。
もちろん高校三年の夏は海鮮丼なんて食べている場合じゃなく、理人が死んだと知って泣きながら帰った。どうして俺が助かって、理人が死ななければならなかったのか。
死ぬのは俺じゃなかったのか。俺が死ねばよかったのではないのか。大学三年生になった今でも、そんな思いにとらわれ悪夢を見る。
俺の時間は進んでいるのに、あいつの時間は止まったままだ。吉樹の思考は絶えずぐるぐると同じところを巡っている。
海鮮丼、あれから食べていないけれど。食べてしまっていいのだろうか。
彼岸食堂というのはどんなところだろう。思い出の一品を書かせたくらいだから海鮮丼を食べさせてくれるのだろうけれど、本当に食べていいのだろうか。
線香をあげて、花は袋に入れたまま彼岸食堂へ向かった。
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