気を付けてー天ぷらー 第十四話
今度は光也からだった。
「どうしたの」
「昨日父さんが夢に出てきて叱られてさ。どうしているかなって思って」
小春は内心で笑った。勝也は二人の息子に同じ日に叱ったのだ。
「まあ、それなりに元気にしているわよ」
彼岸食堂のことは、拓也たちには話していない。光也にも話すつもりはなかった。
「仕事は終わったの」
「ああ、終わって今は家にいるよ」
「拓也とは連絡とってる? 話は聞いた?」
「兄ちゃんがどうしたの? あまり連絡はしてないよ」
どうやら何も聞かされていないらしい。
「司さん、妊娠したんですって」
「へえ、それはめでたい。俺に甥っ子か姪っ子ができるのか」
「そうよ。あんたはどうなの。仕事はうまくやれてるの」
しばらくの沈黙ののち、「俺も」と光也は小さく言った。
「俺もさ、母さんに紹介したい人ができたんだ」
「まさか、結婚?」
「うん、本気で結婚を考えている。プロポーズもしたよ」
「あらまあ」
光也は浮いた話が一切なく、結婚はまだ先になるだろうと漠然と思っていたから、本当に驚く。
「今度の休日、そっちに行ってもいいかな。彼女も連れて。正式な挨拶ってやつ」
「いいわよ。いらっしゃい。その前に、父さんのお墓参りね」
ちょっと面倒くさそうな返事が聞こえた。
叱りたくなったが、嬉しさのほうが上回って何も言えなかった。
二言、三言話をして、電話を切る。
おめでた続きだ。勝也が死んでから早く同じ場所に行きたいと思っていたけれどもう少しだけ、生きてみたくなる。
彼岸食堂は、このような嬉しいことも運んでくれるのだろうか。
いや違う。これは単なる偶然だ。あの不思議な食堂は、死者と引き合わせる力があってもおめでたい話をもって来るようにはできていない。だって死と新しく芽吹いた命は正反対のものだから。
仏壇に手を合わせる。
ねえ勝也、光也には結婚を考えている彼女ができたんですって。聞こえている?
どんな女性かしらねえ。それにしてもあなた、どうやって息子たちの夢の中に入ったの。
色々語り掛け、問いかけてみるが声は何も聞こえない。でもきっと、天国で聞いて、なにか返事はしてくれているのだろう。
いつも見ている。
その言葉を思い返しただけで、安堵する。
なにか勝也に文字でメッセージでも送ろうか。
リビングに戻りスマホを手に取ると、スマホの電源が落ちていた。
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