気を付けてー天ぷらー 第十二話


朝は幸福感と絶望感が小春の中で同居していた。


一晩経ってもまだ、食堂の余韻が残っている。仏壇に線香を立て、手を合わせる。


生き抜いて、会える時はあとどのくらい? 


この世に誕生して六十余年。人生はあっという間に過ぎたのに、死ぬまでの時間がとても長く感じられて絶望的な気持ちになる。


でも、気持ちを切り替えなくちゃ。 


涼しくなったら箱根に行こうとパソコンから観光地を見る。


すると、家に電話がかかってきた。


「もしもし母さん?」

「その声は拓也ね。ずいぶん久しぶりじゃない」

「しばらく電話できなくてごめん」

「会社は?」

「今日は休み。俺の仕事、土日関係ないからさ」


忙しく過ごしているのだ。でも、急にどうしたのだろう。


「どうしたの」

「昨日の夜親父の夢を見てさ。『母さんに会ってやれ』って。それで気になって電話をかけたのと、あと大切な話があるから、今からそっちに行ってもいい?」


勝也は本当に、息子の夢枕に立ったのだ。否、夢を見たと言っているから夢枕とは言えないのかもしれないけれど。


「大切な話って」

「まあそれは会ってから話す」


よほど大事なことなのだろう。


「いいわ。いらっしゃい。司さんも一緒?」


司とは、お嫁さんのことだ。拓也の家からうちまでは一時間とかからない。


「ああ、二人で行く」

「ならお茶菓子買っておくわ」


電話を切ると、ネットを閉じて慌てて掃除をし、近くのスーパーにお茶菓子を買いに行った。


大切な話ってなんだろう。悪い知らせじゃなければいいけど。


やきもきしているうちに、時間が過ぎ、拓也と司がやってきた。


「こんにちは。お久しぶりです。五年ぶりでしょうか。ずいぶんお会いできなくてすみません」


司はそう言って菓子折りを渡す。


ストレートの長い髪に、艶のある肌。今の若い子はみんな綺麗に思える。


「いえ、中に入って。腰を掛けて」


拓也が先に中に入ると、リビングのテーブル椅子に腰をかける。


司も会釈をしてそれに続いた。


菓子器に買ってきたチョコレート菓子を入れ、紅茶を淹れて差し出す。


若い子は、和菓子よりもこうしたもののほうが食べやすいだろう。


小春は拓也の正面に座った。


「夢で父さんに叱られたよ。なんで会ってやらないんだって」


自嘲するように笑った。勝也はどうやって息子の夢の中に忍び込んだのか、全くわからない。


でもあの人のことだから、誰かに拓也や光也の行方を聞いたのだろう。一度やると決めたらてこでも折れないのだ。


「昨日お墓参りに行ってきたわ。父さんもあなたたちのこと、気にかけているのよ」

「そうかな」

「そうよ。あなたもお墓参りに行きなさい。今お彼岸だから」

「わかったよ」


拓也はぶっきらぼうに答える。横顔は、勝也に似ている。


「それで、用件を聞きましょうか」


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