気を付けてー天ぷらー 第五話
「似ている。でも住居は等しく同じ間取りで、みんな平屋なんだ。高い建物はないよ。区画ごとに色分けされているけど、同じ建物が続いている」
どうやら、天国――日本的にいえば極楽という場所は現代的になっており、町や娯楽
施設もあるそうだ。ただ住居と紙幣は平等だという。
「それって迷わない?」
「最初は迷って、知らない人の家に上がり込んでしまった」
勝也は豪快に笑った。
「困ったでしょう。部屋はどのくらい広いの」
「4LDK。これは家族で亡くなった人のことを考えて作られているようなんだ。だから一人で使うにはもったいないくらいだよ。小春が死んだときには二人で住める」
早くそっちに行きたい。だから事件に巻き込まれて死んでもいいと思った。
「お待ちどうさま」
天ぷらがお盆に乗せられ運ばれてきた。白米と吸物付きだ。
お盆のまま、テーブルの上に置かれる。
「エビにかき揚げ、イカ、大葉、かぼちゃ、レンコン、ピーマン、ししとうです。お塩と、大根おろし付きの天つゆ両方を用意いたしましたので好きにお召し上がりください。お吸い物は三つ葉とミョウガを入れてあります。ドリンクは小春さんは好きに選べます。勝也さんは小春さんの飲むものに従ってください。なにが宜しいですか」
東郷はそう言ってドリンクのみが書かれたメニューを見せる。
「なぜ私しか好きなものを選べないの」
「生きている人間だからです。彼岸にいらっしゃるかたは基本食事もドリンクも選べないルールです。例外もありますが」
顔を見合わせる。故人は選べない。なんだかそこにはとてつもない壁を感じた。
小春は勝也と二人でメニューを覗き込んだ。
「なら食後にコーヒーでいいかしら」
「俺は構わない」
では、と小春は東郷に頼む。
「かしこまりました」
東郷は会釈をして去っていく。おいしそうな衣の香りがした。
そういえば天国の食事事情はどうなっているのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます