気を付けてー天ぷらー 第四話
「嘘よ。あんなこと、もう怒っていない」
喜びが胸の中に広がっていく。涙も出てくる。勝也に会えた。
ハガキに勝也の名前を書かせたのは、会いたい故人に会えるからなのだと理解する。
「どうだ、調子は」
いつまでも大人げないことを言っていてもしょうがない。
「あなたが死んだあとは、大変だったわ」
十五年前のことは今でも昨日のことのように思い出す。
それが小春の心を重くしている。
「まさか俺の運転する車がガードレールに突っ込んで転落するとは思わなかったよ」
勝也は三十代で独立し、五人で小さな会社を作って回していた。だから働きに出るときはいつも車だった。
「どうしてそんなことになったの」
「運転ミスだ。カーブするときにそのまま突っ込んじまった」
勝也が出かけた直後、怪奇現象が起きた。携帯の電源が勝手に落ちたのだ。
不具合が起きたのかと思って起動させた。その二時間後に病院から電話があった。
奥さまですか? 旦那様が事故を起こして、心肺停止状態です――
受話器の向こうで女性の声を聞いたとき、こちらの心臓も止まるかと思った。
「まあ、事故の話はやめよう。今の話をしようか」
今。小春は勝也が死んだ後に勤めていた会社を辞めて、特に何もしていない。
勝也の話を聞こう。
「あなた、天国にいるのよね」
勝也は大きく頷く。
「満喫しているよ」
「天国ってどんなところなの」
「閻魔なんていなかったよ。死んだ人が一か所に集められて、死んだと説明を受けて、住居を割り当てられるんだ。説明してくれた人にお疲れさまでした、とか言われたな。それで、毎朝所定の場所で紙幣が配られて、好きに買い物ができる。商店街みたいなところがあってな。生前懸命に生きたからと言って、働かなくてもいいことになっている」
「街並みなんかはこっちとそう変わりないってこと?」
天国というと花畑とか、綺麗なところを想像するが。
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