気を付けてー天ぷらー 第三話
「え。勝也なの? 噓でしょ?」
まじまじと目の前にいる勝也を見る。白髪交じりの黒髪。顔にできた皺。面長の顔。
十五年前に死んだ勝也に間違いなかった。死人のままの顔ではない。
血色がよく、生きていた時、最後に見た勝也の顔だ。驚きを隠せなかった。
「なんでここにいるの。あなたは死んだはず……」
「この店は彼岸と此岸を繋ぐ場所です。彼岸の時期にだけ、死人と一緒に食事ができます」
東郷が紳士的な、落ち着いた声でそう説明をする。
「どういうことなの」
混乱していた。
「言葉通りです。天ぷらでしたよね。ご用意いたします」
なにか言いたくても混乱して声を出せない。東郷はそのまま厨房に入ってしまった。
「久しぶりだな、小春」
勝也が笑顔で話している。
「本当に勝也なの」
「そうとも。あの世で俺のところにも招待状が来てな。小春と一緒に天ぷらを食べられるというので来てみた」
「来たってどうやって」
「案内人がいて、天国からの直通エレベーターに乗ってここへ来た。俺は店から出られないらしいが……」
「エレベーターって? どこにもないけど」
「死者には見えるんだよ。ほら、この店の中央部分。そこが死者のエレベーターになっているんだ」
なにもない空間をまじまじと見てみる。エレベーターらしきものはない。
「案内係は近くにいるの」
「時間を見計らってやってくるってさ」
ぐるりと周囲を見渡す。先ほどまで一人でいた客も、正面に誰かが座っている。エレベーターに乗ってきた死者に会えたということなのだろうか。みんな喜んだ顔をしている。
「まあ細かいことはいいじゃないか。今日はこうしてお前と食事ができるんだ。こんな奇跡はないぞ。たくさん話そうじゃないか」
勝也の顔を目の前にして、思わず口にした。
「なによ、あなた。死んだ日の朝ゴミを拾わなかったくせに。のこのこ私の前に出てくるなんて」
「まだそれを言うのか。相変わらずだな」
十五年前の朝、勝也が落としたごみを拾わず、ギスギスした状態でこの世を去った。
「そうよ。ずっと根に持ってる」
「落ち着いて」
勝也は口にした。なんだか妙に達観しているような顔だった。
勝也に会えたことに、驚きと混乱はしたものの、案外すんなりと受け入れている。
それが小春自身、不思議だった。十五年前に死んだのに、十五年前の会話の続きをしているような。そんな気分にさせられる。
外見は歳をとったかもしれないけど、心は時間が止まったまま、進んでいない。
小春は笑う。
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