気を付けてー天ぷらー 第二話
九月二十日。
小春は勝也の眠っているお寺を訪れた。三月のお彼岸、命日、九月のお彼岸には必ず行っている。綺麗に墓石を磨き、花と線香を添えた。
息子二人は墓参りすら来ない、薄情者だ。メールをしても何かと理由をつけて断られる。
「拓也も光也も大きくなったけれどここへは来ようとしないわねえ」
墓の前で、そんな独り言を漏らす。長男が拓也、次男が光也だ。
「今日は彼岸食堂というところに行くの。そこであなたをよく思い出すことにしたわ。でも本当は不安なの。初めて行くところだし、招待状は怪しかったし……」
人が来たので口を閉ざし、静かに手を合わせる。
お寺を出ると鞄から招待状を取り出し、同封されていた地図を確認した。
東京の片隅にあり、お寺からは電車を二回乗り継ぎ二駅目。
九月の陽光は八月ほどの勢いはないものの、ちょっと動くだけでも汗が出る。
地図の書かれた場所にたどり着いた。
ビルとビルの間に、小さな白い建物がある。茶色い木製のドアから、中は見えない。
看板は特に出ておらず、本当にここでいいのかと迷いながら、数秒ためらい、思い切ってドアを開ける。
「いらっしゃいませ」
男性の声が聞こえた。ここでよかったらしいことに安堵し、店内を見回すと、二十席ほどあった。
テーブルには白いクロスがかけられ、食堂というよりはレストランのようだった。
店内は明るい。客は少なく、みんなどこか緊張した面持ちでいる。
「ようこそおいで下さいました。招待状はお持ちですか」
コック帽を被り、白い服を着た男性が小春に近づく。店主なのだろうか。
年齢は小春より一回り下の、五十代くらいに見える。
「これを」
招待状を見せた。店主は受け取ると微笑んだ。
「白井様ですね。どうぞこちらへ」
案内されたのは店内の端にある席だった。店の中は中央部分だけなぜか大きな置物でもおけるほど空いている。
従業員と思われる人は、コック帽を被った店主一人で、ほかには誰もいないようだ。
「あの、あなたが一人でお店を回しているのですか」
頭の中で溢れ出てくる疑問に、思わず口にしていた。
「ええ、そうです。店に手伝い人はいません。東郷泰史、と申します」
「あなたが招待状を送って下さったの」
「そうです」
「ハガキにはなぜ亡くなった人の名前を書かせたのですか」
そこがどうしても引っかかっていた。
故人の名前を書かせる意味が分からない。一体どうしようというのだろう。
「それは――すぐにわかると思います」
東郷は一度席を離れ、グラスに入った水を二つ持ってきた。
「二つ……?」
「小春、よう」
声が聞こえて目をやると、いつの間にか正面に勝也が座っていた。
信じられない光景に目を見開く。
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