彼岸食堂
明(めい)
気を付けてー天ぷらー 第一話
① 会いたいと思っている故人の名前
② 思い出の一品
③ 九月二十日から二十六日までで都合のいい日
④ 午前十一時から午後二時までの間で都合のいい時間
⑤ 出席 欠席
返信ハガキにこれらの項目を書いて返送してください。
絶対条件としてお墓参りを済ませてからお越しください。
招待状は忘れずにお持ちください。お会計は必要となります。
彼岸食堂
太陽がまだ痛いほど照り付けている八月の終わり、庭で水撒きをしていたら白井小春に招待状が届いた。
お届けものですと、郵便局の人に白い封筒を手渡されたのだ。
急いで家に入り封を開けてみると、返信ハガキと招待状、地図が入っていた。
なんだろう。思い出深い料理のリクエストをされ、食堂に招待されているようだが、誰が差し出したものなのか。
すぐにインターネットで検索し、ストリートビューで住所を確認してみると確かに一軒の建物が写されていた。
だが、「彼岸食堂」と書かれた看板はどこにもない。映されている建物は窓がほとんどなく、茶色いドアがあるだけだ。
招待状に「食堂」とあるからには、食事をするところなのだろうけど、返信ハガキに故人の名前を書かせる点が腑に落ちない。
暇も持て余している。昼間だし、行くだけ行ってみよう。建物の前まで行って嫌な感じがすればすぐ引き返せばいい。いや、いっそ事件に巻き込まれて殺されてもいい。
この世に未練なんかないから。そう思って返信ハガキをポストに投函した。
それが二十日前。
子供は息子が二人とも三十代。独立して、誰も家に寄り付いてこない。庭付き一戸建て、4LDKの家にずっと一人でいると、寂しくてたまらなくなる時がある。
子供がまだ手のかかるときは賑やかだった家も、いざ一人で住んでいると広く静かに感じられるものだ。
今、後悔だけが胸に残っている。十五年前に死んだ旦那の勝也のことは片時も忘れたことはない。
思い出の一品は天ぷらにした。勝也の好物だった。そして天ぷらは、小春の後悔の象徴でもあった。
本当に食事ができるところなら、この後悔も終わりにできるかもしれない。
そろそろ終わりにしなければならないと自分でもわかっている。
食堂は、彼岸とあるだけになにかいわくつきなのだろう。
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