第5話

 僕は幸い自営の建築設計業なので自分のペースを取り戻すのにそんなに時間はかからなかった。

 彼女も時が経つにつれ日常に戻りつつあった。家電や家財道具も徐々にそろえて家事ができる普通の生活になっていった。また水泳教室に通ったり家事をこなしたりと彼女なりのライフスタイルもできあがり、日々平穏になっていった。

 そして、時がたつにつれて周囲の関心もうすれて2人の精神状態もすこぶる健康的になり経済的にも安定度が増してきた。

 2人は時たま旅行に出かけたり外食をしたりと自由気ままな生活に慣れ浸しみながら数年のときを過ごしていった。

 或る日彼女はからだの変化に気が付いた。どうやら妊娠したらしい。2人はN病院へ早速行った。間違いなく妊娠であったが、流産の恐れがあるというので入院することになった、こういう場合母親がなにかとアドバイスをくれるのだろうが、数年間、親子が断絶状態なので彼女はさぞかし心細いだろうなと僕は思った。

 入院生活が始まり僕は毎日のように病院を訪れ何かと彼女を気ずかっていた。

或る日看護師さんが僕に「おじいちゃん毎日大変ですね」と声をかけてくれた。僕は一瞬「えー」と思ってしまったが、世間はこう見るんだなと思いため息をついた。

 やがて臨月をむかえて予定日が近づいてきた、彼女は腰の痛みを訴えて看護師さんが頻繁にさすってくれるようになった、僕はその様子を呆然と眺めていると看護師さんが旦那さんはどうしたのかしらねと要求するように言った。僕は気まずそうに僕があのそのそれなんですと口をもごもごさせながらいった。

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